このユニットの結論
120人は、全員で話し合って仕事をすることはできません。
役割ごとのチームに分かれ、決める人と決める場を決め、決まったことを成果物(文書・一覧)に残して共有することで、互いを直接知らない人どうしでも、同じ事実をもとに仕事を進めます。
1. 何の話か
このユニットは、大人数のプロジェクトの働き方の話です。
数人のチームなら、隣の席の人に聞けば分かります。120人になると、名前も顔も知らない人の決めたことが、自分の仕事の前提になります。そのための仕組みを、入口として見ておきます。
2. なぜ必要か
仕組みがないと、
- 同じことを、別々のチームが別々に決めて、食い違う
- 決まったことが、関係する人に届かない
- 困ったことを誰に相談すればよいか分からず、問題が埋もれる
- 会議ばかり増えて、作業の時間がなくなる
ということが起きます。
3. このユニットで分かること
- 大人数のプロジェクトの4つの仕組み
- 成果物が「共通の事実」になる理由
- 大人数の働き方で、AIに任せてよいことと人間が決めること
4. 4つの仕組み
| 仕組み | 内容 | 詳しく学ぶところ |
|---|---|---|
| チームに分ける | 業務・設計・開発・テスト・移行・運用などの役割ごとにチームを作り、責任者を置く | PRG-003 プロジェクト体制図 |
| 決める人と場を決める | 何を誰が決めるか、どの会議で決めるかをはっきりさせる | 03-03、03-04 |
| 成果物に残す | 決まったこと、分かったこと、困っていることを、決まった形の文書・一覧に残す | 成果物一覧 |
| 困ったことを上げる | 自分たちで解決できないことを、決まった道筋で上に上げる | 03-05 |
5. 成果物が「共通の事実」になる
大人数のプロジェクトでは、話した内容は、話した人にしか残りません。成果物(要件一覧、課題の一覧、設計の記録、テストの結果など)に残すことで、
- その場にいなかった人も、同じ事実を見られる
- あとから入った人も、これまでの経緯をたどれる
- 「言った・言わない」の食い違いを防げる
ようになります。そのためには、何をどの成果物に残すか、成果物をどこに置くかを、プロジェクトの初めに決めておくことが大切です。
CASE FACTFROZEN正本に記載されたアステリア案件の事実
アステリア案件に関係する記載
- 約120人規模のプロジェクト、マルチベンダー(Vendor 4社)
- 正本に記載された人物:アステリア側 13名、Vendor PM 3名
- 役割の例:CFO/プロジェクトスポンサー(P-001)、プログラムマネージャー(P-003)、PMOリーダー(P-004)、業務のリーダー(P-005〜P-007)、システムアーキテクト(P-008)、各分野のリーダー・責任者(P-009〜P-013)
- 70種類のプロジェクト成果物、うち29種類が重点成果物
アステリア案件のチームの分け方、各チームの人数、会議体、報告の道筋は、正本に記載がありません。未確定 人物の一覧は 人物 で確認できます。
6. THINK — 「会議に出た人は知っているので大丈夫です」
ある会議で、テストの開始日を1週間遅らせることが決まりました。記録は、出席者それぞれの手元のメモだけです。会議を開いた担当者は次のように言っています。
「出席した人は全員知っているので大丈夫です。記録にまとめるのは手間なので省きます。」
問題
この進め方でよいでしょうか。
判断例を開く
判断
このままではよくありません。
確認すること:
- その決定は、その会議で決めてよい範囲のものか。決める人は誰か
- 会議に出ていないが影響を受けるチーム(開発・移行・利用部門など)は、決まったことを知っているか
- あとから入った人が、決まったことと、その理由をたどれるか
- 全体のスケジュールなど、関係する成果物に反映されているか
出席者の記憶とメモは、人によって食い違います。決まったことは、決められた成果物に残し、影響を受ける人に届けます。
7. よくある失敗
- 決まったことを、会議の出席者だけが知っている
- 文書の置き場所が決まっておらず、必要なときに探せない
- 困ったことを抱え込み、上げるのが遅れる
- 全員を会議に呼び、会議が増えすぎる
8. 成果物との接続
- PRG-003 プロジェクト体制図:チームと責任者、報告の道筋
- PRG-004 役割・責任分担表:何を誰が決め、誰が実行するか
- PRG-006 課題・リスク管理表:困っていることを、全員が見られる一覧にする
- PRG-007 意思決定記録:決まったことと、その理由
9. AI WORKFLOW — 決まったことの転記を手伝わせる
AIは、話し合いの記録から、決まったことを取り出す下書きに役立ちます。
指示例:
「次の会議のメモから、①決まったこと、②決まっていないこと、③ほかのチームに伝える必要がありそうなこと、を分けて一覧にしてください。決まったかどうかがはっきりしないものは、決まっていないことに入れてください。」
10. REVIEW — AIの整理を確認する
- AIが「決まったこと」としたものを、話し合った本人たちが確かめたか
- 決める権限のある人が決めたことか
- メモを AI に渡してよいか(秘密の扱い)を、事前に確かめたか
ADVANCED深掘り — 実務者向けに一段深く
深掘り — 調整の手間は人数の二乗で増える
経路の数を数えてみる
n 人がいるとき、1 対 1 で話す経路の数は n×(n−1)÷2 です。10人なら 45、30人なら 435、120人なら 7,140 になります。人数が 12 倍なら、経路は約 159 倍です。「全員が全員と話して合わせる」という前提は、この数の時点で成り立ちません。
だからチームに分け、つなぎ目を設計する
人数を小さなチームに分けると、チームの中の経路は少なくて済みます。代わりに、チームとチームの間の接点(窓口になる人、定例の会議、共有する文書)が必要になります。この接点が 00-01 で学んだ「つなぎ目」です。つなぎ目は自然には生まれないので、誰が窓口か、何を文書で渡すか、どの会議で決めるかを、体制図と役割分担表に書きます。
人を足すと遅くなることがある
遅れている作業に人を足すと、新しい人に教える時間と、調整の経路が同時に増えます。その結果、かえって遅れることがあります。世界で共有されている考え方では「ブルックスの法則」と呼ばれます。人を足すなら、作業を分けられる早い段階に、教える人を決めた上で足します。
測り方の例
- 1 人あたりの会議の時間(週)
- 1 つの決定に関わる人数と、決まるまでの日数
- 他のチームへの依頼が往復する回数
これらが増え続けているなら、つなぎ目の設計を見直す合図です。
現場で確かめる問い
- 体制図に、チームとチームの間の窓口(人・会議・文書)が書かれているか。書かれていないつなぎ目はどこか
- 1 つの決定に関わる人数が、最近増えていないか。増えているなら、どの決定か
- 遅れている作業に人を足す案が出たとき、教える人と分けられる作業が先に決まっているか
- 週あたりの会議の時間を、役割ごとに数えたことがあるか
アステリア案件でチームをどう分け、各チームが何人だったかは、正本に記録がありません。記録なし
11. 人間が判断すること
- チームの分け方と、責任者
- 何を誰が決め、どの場で決めるか
- 決まったことを確定し、どの文書に残すか
12. 判断演習
あなたは、120人のプロジェクトに今日から参加しました。
最初の1週間で確かめておきたいことを3つ挙げてください(例:自分のチームの責任者は誰か)。
あなたの記録あなたの考え。事実ではありません
判断ノート
このユニットで覚えてほしいこと
120人は、チームに分かれ、決める人と場を決め、成果物に残して共有することで、互いを直接知らなくても同じ事実をもとに働けます。
決まったことは、影響を受ける人が見られる成果物に残します。