このユニットの結論
プロジェクトの問題は、見つけるだけでは解決しません。
「すでに起きている問題(課題)」と「これから起きるかもしれない問題(リスク)」を分け、それぞれに担当・期限・次の行動を付けて追いかけることで、初めて管理できます。
1. 何の話か
このユニットは、プロジェクトで起きる問題の管理の仕方の話です。
大規模なプロジェクトでは、毎週のように、
- 仕様が決まらない
- 他社の回答が来ない
- テスト環境が使えない
- 担当者が足りない
といった問題が出てきます。これを個人のメモや会議の口頭だけで扱うと、忘れられたり、同じ議論を繰り返したりします。
2. なぜ必要か
問題を一覧にして管理すると、
- 誰が対応しているかが分かる
- 期限が過ぎたものが分かる
- 自分たちで解決できないものを、上の人に上げられる(エスカレーション)
- 何が決まったかを、あとから確認できる
ようになります。
3. このユニットで分かること
- 課題(Issue)とリスク(Risk)の違い
- 問題を「管理できる状態」にするために必要な項目
- 状況報告で、事実と評価を分けて伝える理由
4. 課題とリスクを分ける
| 課題(Issue) | リスク(Risk) | |
|---|---|---|
| 意味 | すでに起きている問題 | まだ起きていないが、起きる可能性がある問題 |
| 主な対応 | 解決する | 起きにくくする/起きたときの備えをする |
| 例(教材上の例) | 仕様の回答が期限を過ぎた | 回答が遅れれば、設計の開始が遅れるかもしれない |
同じ「気になること」でも、課題かリスクかで打つ手が変わります。
5. 管理できる状態とは
一般的には、1件ごとに少なくとも次を決めます。
- 何が問題か(事実)
- どんな影響があるか
- 誰が担当するか(個人または明確な役割)
- 次に何をするか
- いつまでに、またはいつ見直すか
- 状態(未着手・対応中・完了など)と、完了とした理由
「確認中」とだけ書かれた項目が何週間も残っているなら、管理できていない可能性があります。
CASE FACTFROZEN正本に記載されたアステリア案件の事実
アステリア案件の体制に関する記載
- 約120人規模のプロジェクト
- P-003 西村 俊介 — プログラムマネージャー
- P-004 田辺 彩 — PMOリーダー
- マルチベンダー(Vendor A〜D)
アステリア案件の課題・リスク管理表の実際の中身や、どの会議で扱ったかは、正本に記載がありません。未確定
6. THINK — 「対応中」が並ぶ一覧
課題一覧を見ると、30件のうち28件が「対応中」でした。
問題
この一覧から、プロジェクトの状態は分かりますか。
判断例を開く
判断
分かりません。
確認すること:
- 各項目の次の行動と期限が書かれているか
- いつから「対応中」のままか
- 担当が個人または明確な役割になっているか
- 自分たちで解決できず、上げるべき項目が埋もれていないか
状態だけが並ぶ一覧は、「問題があること」しか伝えません。
7. 状況報告では事実と評価を分ける
問題の一覧は、状況報告の材料になります。
報告では、
- 事実:何が起きているか、何が終わったか
- 評価:その結果、予定どおりか、遅れそうか
- 依頼:誰に何を決めてほしいか
を分けて伝えます。事実と評価が混ざると、読む人が正しく判断できません。
8. よくある失敗
- 課題とリスクを区別しない
- 担当が「全員」「関係部署」になっている
- 期限がない、または期限を過ぎても見直さない
- 完了にした理由が残っていない
- 報告で都合のよい評価だけを伝える
9. 成果物との接続
- PRG-006 課題・リスク管理表:問題を担当・期限・次の行動に落とす
- PRG-010 プロジェクト状況報告書:状況を、事実・評価・依頼に分けて伝える
- PRG-007 意思決定記録:問題を解決するために決めたことを残す
危機演習 CR01 要件定義が終わらない、CR05 開発が2か月遅延 では、報告された状況をどう読むかを体験します(学習上の接続です。正式な対応関係ではありません)。
10. AI WORKFLOW — 一覧の点検を手伝わせる
指示例:
「この課題・リスク一覧を確認し、①担当なし、②期限または次回見直し日なし、③次の行動が『確認する』だけ、④長く状態が変わっていない項目、⑤課題とリスクの分類が怪しい項目、を挙げてください。優先度は決めず、判断材料だけを示してください。」
会議記録から新しい課題の候補を抜き出させることもできます。
11. REVIEW — AIの結果を確認する
- AIが挙げた「長く変わっていない項目」が、本当に止まっているのか
- 会議記録から抜き出した候補が、実際に合意された内容か
- AIが優先度や影響を推測で書き足していないか
ADVANCED深掘り — 実務者向けに一段深く
深掘り — 課題の滞留日数と、上げる基準
滞留日数を持つ
課題ごとに「起票してから今日まで何日か」を持ち、分布で見ます。古い課題ほど関係者の記憶が薄れ、解決しにくくなります。一覧を「件数」で見るだけでなく、「30 日を超えた課題が何件か」「平均の滞留日数が増えているか」で見ると、管理が回っているかが分かります。
優先度は 2 つの軸で
影響の大きさ(止まる業務の広さ、金額、安全)と、期限までの余裕の 2 軸で 4 つに分けます。「影響が大きく余裕がない」は今すぐ、「影響が大きく余裕がある」は計画して、「影響が小さく余裕がない」は担当で処理、「影響が小さく余裕がある」はやらない判断も含めて見直します。1 つの軸だけで並べると、急ぎの小事が重要な大事を押しのけます。
上げる基準を数値で決める
「影響が大きい課題が 10 営業日動かなければ PMO に、20 営業日で責任者の会議に上げる」のように、上げる基準を数値で決めておきます。基準がないと、担当者の遠慮や忙しさで課題が止まり、上に届いたときには手遅れになります。基準は個人を責めるためではなく、止まった課題を仕組みで動かすためのものです。
同時に抱える数に上限を置く
担当者あたりの進行中の課題に上限(たとえば 3 件)を置くと、終わる速度が上がります。たくさん抱えると切り替えの手間が増え、どれも終わらないからです。世界で共有されている考え方では、進行中の仕事(WIP)の制限と呼ばれます。
現場で確かめる問い
- 一覧を滞留日数の分布で見たことがあるか。30 日を超えた課題は何件か
- 優先度は 1 つの軸だけで付けていないか。影響と期限の 2 軸で見直すとどう変わるか
- 上げる基準(何日止まったら誰へ)が数値で決まっているか。最近それで上がった課題はあるか
- 担当者あたりの進行中の課題は何件か。上限を置くなら何件か
アステリア案件で課題がどう管理され、上げる基準が何だったかは、正本に記録がありません。記録なし
12. 人間が判断すること
- 優先度と担当
- どの問題を上に上げるか
- リスクを受け入れるか、対策するか
- 問題を完了とするか
13. 判断演習
あなたの一覧に「他社の回答待ち(対応中)」という項目が3週間残っています。
あなたなら、この項目に何を書き足しますか。
- 次の行動
- 期限または見直し日
- 回答が来ない場合に上げる先
- 回答が遅れた場合の影響
あなたの記録あなたの考え。事実ではありません
判断ノート
このユニットで覚えてほしいこと
問題管理の目的は、明日の朝、誰が何をするかが分かる状態にすることです。
課題とリスクを分け、担当・期限・次の行動を付けて追いかけます。