このユニットの結論
プロジェクトは、決まった期間で、決まった成果物を作り上げる取り組みです。プログラムは、互いに関係する複数のプロジェクトを束ね、全体として目的(効果)を実現する取り組みです。
大規模な刷新では、1つのプロジェクトの中だけを見ていると、ほかのプロジェクトとのつながりや、全体の目的を見失います。
1. 何の話か
このユニットは、プロジェクトとプログラムという2つの言葉の違いの話です。
大規模なシステム刷新では、「プログラムマネージャー」「プロジェクトマネージャー」のように、似た言葉の役割が出てきます。言葉の違いを知っておくと、誰がどの範囲に責任を持つのかを理解しやすくなります。
2. なぜ必要か
2つを区別しないと、
- 各プロジェクトが自分の成果物を作ることだけに集中し、全体の目的(業務がどう良くなるか)が置き去りになる
- プロジェクトどうしの依存(片方が終わらないと、もう片方が進められない)を、誰も管理しない
- 限られた人やお金を、どのプロジェクトに回すかを決める人がいない
ということが起きます。
3. このユニットで分かること
- プロジェクトとプログラムの違い
- プログラムで管理すること
- プログラムの管理で、AIに任せてよいことと人間が決めること
4. 2つの違い
| プロジェクト | プログラム | |
|---|---|---|
| 目的 | 決まった成果物を、期間と予算の中で作る | 複数の取り組みを合わせて、目的(効果)を実現する |
| 期間 | 始まりと終わりがはっきりしている | 複数のプロジェクトにまたがり、長いことが多い |
| 管理の中心 | 範囲・スケジュール・品質・費用 | プロジェクトどうしのつながり・優先順位・人とお金の配分・全体の効果 |
| 例(教材上の例) | 新しい会計システムの導入、データ移行 | 会計・営業・人事の仕組みを一緒に刷新し、経営の見え方を良くする取り組み全体 |
呼び方は、会社やプロジェクトによって違います。大きな1つのプロジェクトの中に、いくつかの「サブプロジェクト」や「チーム」を置く形もあります。言葉よりも、誰が全体のつながりと目的に責任を持つかが大切です。
5. プログラムで管理すること
一般的には、次のことを管理します。
- 全体の目的と効果:各プロジェクトの成果物が、全体の目的にどうつながるか
- 依存関係:あるプロジェクトの成果が、ほかのプロジェクトの前提になっていないか(PRG-009 依存関係一覧)
- 優先順位と配分:限られた人・お金・時間を、どこに回すか
- 共通のルール:進め方・報告・文書の形をそろえる
- 全体のリスク:1つのプロジェクトの遅れが、全体にどう広がるか
CASE FACTFROZEN正本に記載されたアステリア案件の事実
アステリア案件に関係する記載
- 大規模基幹システム刷新。約120人規模のプロジェクト
- システム 11、Vendor 4社(マルチベンダー)
- P-003 西村 俊介 — プログラムマネージャー
- P-004 田辺 彩 — PMOリーダー
正本には「プログラムマネージャー」という役割があります。しかし、アステリア案件が、いくつのプロジェクト(またはサブプロジェクト・チーム)に分かれているか、それぞれの責任者が誰かは、正本に記載がありません。未確定 役割の名前から、体制の分け方を推測しません。
6. THINK — 「うちのプロジェクトは予定どおり」
刷新の取り組みの中で、データ移行のチームの責任者が次のように報告しました。
「データ移行のチームは予定どおりです。ほかのチームの遅れは、うちには関係ありません。」
ところが、データ移行の練習には、新しいシステムの画面とデータの形ができていることが必要で、その開発のチームが遅れています。
問題
この報告のとおり、データ移行のチームは「予定どおり」と扱ってよいでしょうか。
判断例を開く
判断
そのままでは扱えません。
確認すること:
- データ移行のチームの予定は、ほかのチームの成果を前提にしていないか
- 前提になっているチームの遅れが、いつ、どれだけ影響するか
- 依存関係を、誰が全体として見ているか
- 影響が出る場合、順番を入れ替えるなどの手を、誰が決めるか
1つのチームの中では予定どおりでも、全体の中では遅れの影響を受けていることがあります。それを見るのが、プログラムの管理の役割です。
7. よくある失敗
- 各プロジェクト(チーム)の報告を足し合わせるだけで、つながりを見ない
- プロジェクトどうしの依存を、一覧にしていない
- 全体の目的が、成果物を作ることにすり替わる
- 人の取り合いを、プロジェクトの責任者どうしで解決させようとする
8. 成果物との接続
- PRG-001 プロジェクト憲章:全体の目的と範囲、責任者を示す
- PRG-003 プロジェクト体制図:どのチームが何を担当し、誰に報告するか
- PRG-009 依存関係一覧:チームどうし・システムどうしの依存を管理する
最終責任の考え方は 03-01 誰が最終責任を持つのか で学びます。
9. AI WORKFLOW — 依存関係の候補を洗い出させる
AIは、各チームの計画から、依存関係の候補を探す下書きに役立ちます。
指示例:
「次の各チームの計画を読み、あるチームの作業が、別のチームの成果を前提にしている箇所を、候補として一覧にしてください。前提になる成果と、それが必要になる時期も書いてください。遅れの影響は評価しないでください。」
10. REVIEW — AIの洗い出しを確認する
- 候補の依存関係を、両方のチームの担当が確かめたか
- 計画に書かれていない依存(口頭の約束など)が、抜けていないか
- AIが影響を評価したり、順番を決めたりしていないか
ADVANCED深掘り — 実務者向けに一段深く
深掘り — 依存の鎖と、余裕のない経路
依存を線でつなぐ
依存関係の一覧は、表のままでは全体が見えません。チームの作業を点、「この作業はあの成果を待つ」を線にして、始まりから終わりまでをつなぎます。すると、いくつかの経路ができます。世界で共有されている考え方では、最も長くかかる経路を「クリティカルパス」と呼びます。この経路の上の作業が 1 日遅れると、全体も 1 日遅れます。
余裕を持つ作業と、持たない作業
クリティカルパスの上にない作業には、遅れても全体に響かない余裕があります。この余裕の日数をフロートと呼びます。余裕のある作業に人を厚くしても、全体は早くなりません。逆に、余裕がない作業の遅れは、どこかで取り返さない限り、そのまま終わりの日を動かします。チームの報告が「予定どおり」でも、見るべきなのは、そのチームの作業が経路の上にあるかどうかです。
経路は動く
クリティカルパスは固定ではありません。あるチームが遅れると、それまで余裕のあった経路が最も長い経路に変わります。だから、依存の図は 1 度作って終わりではなく、進み具合を入れて引き直します。引き直すたびに、「今、最も長い経路はどれか」「余裕がなくなりつつある作業はどれか」を全体の報告に載せます。
測り方の例
- クリティカルパスの上にある作業の数と、担当するチーム・会社
- 余裕が 5 営業日を切った作業の数(しきい値は教材上の例)
- 依存の線のうち、両方のチームが合意した線の割合
現場で確かめる問い
- 依存関係を線でつなぎ、最も長い経路を特定したことがあるか。その経路の上にどのチームがいるか
- 各チームの「予定どおり」が、余裕のある作業の話か、余裕のない作業の話かを分けて聞いているか
- 依存の図を、進み具合を入れて引き直す頻度はどれくらいか
- 依存の線は、両方のチームが合意したものか。片方だけが知っている線はないか
アステリア案件のクリティカルパスがどの経路で、どのチームの作業が余裕を持たなかったかは、正本に記録がありません。記録なし
11. 人間が判断すること
- 取り組み全体を、どのようなプロジェクト・チームに分けるか
- プロジェクトどうしの優先順位と、人・お金の配分
- 依存関係で遅れが出るときの対応
12. 判断演習
あなたは、複数のチームを束ねる立場になりました。
各チームの責任者から毎週報告を受けるとき、「そのチームの状況」とは別に、必ず聞くことを2つ挙げてください。
あなたの記録あなたの考え。事実ではありません
判断ノート
このユニットで覚えてほしいこと
プロジェクトは成果物を作る取り組み、プログラムは複数の取り組みを束ねて目的を実現する取り組みです。
大規模な刷新では、チームの中だけでなく、チームどうしのつながりと全体の目的を見ます。