Unit 01-01(STAGE 01 の 1 / 7)

「システムが古い」だけでは刷新理由にならない

学習状況:未着手

このユニットの結論

「システムが古い」は、刷新のきっかけにはなっても、理由にはなりません。

古いことで業務の何が困っているのか、このまま使い続けると何が起きるのかを、業務の言葉で説明できたときに、はじめて大きなお金と人をかける理由になります。

1. 何の話か

このユニットは、刷新の理由の立て方の話です。

長く使ってきた基幹システムについて、「もう古いので新しくしたい」という声が上がるのは自然なことです。しかし、経営の立場から見ると、「古い」だけでは、数年がかりで多くの人と費用をかける判断はできません。

経理の仕事にたとえると、「この備品は古いので買い替えたい」という申請に、「古いこと」しか書かれていない状態です。承認する人は、「今、何が困っているのか」「買い替えないと何が起きるのか」を知りたいはずです。

2. なぜ必要か

理由が「古いから」だけのまま進めると、一般的に次のことが起きます。

3. このユニットで分かること

4. 「古い」の中身を分けてみる

「古い」という言葉の中には、たいてい、性質の違う困りごとがいくつも混ざっています。一般的には、次のように分けて考えます。

「古い」の中身 業務の言葉にすると(教材上の例) 確かめること
保守を続けられない 使っているソフトウェアや機器の提供元の支援が、いずれ終わる いつ終わるのか。終わると何ができなくなるのか
分かる人がいない 仕組みを知る人が減り、直すたびに時間がかかる 直すのにどれだけ時間がかかっているか
業務の変化についていけない 新しい契約の形や組織の変更を、手作業で補っている 手作業の量と、間違いの起きやすさ
データがつながらない 同じ情報を複数の仕組みに入れ直している 入れ直しの手間と、数字の食い違い
見たい情報がすぐに見られない 経営が知りたい数字が、締めのあとにしか分からない 誰が、いつ、何を見たいのか

大切なのは、どれも「だから業務の何が困るのか」まで書くことです。「保守が終わる」だけでは不十分で、「保守が終わると、障害のときに直せず、請求の業務が止まるおそれがある」まで書くと、承認する人が重さを判断できます。

5. 「やらない場合」も理由の一部

刷新の理由には、「新しくすると何が良くなるか」だけでなく、「新しくしないと何が起きるか」も入ります。

刷新以外の選択肢を比べずに「刷新しかない」と書くと、承認する人は判断の材料を持てません。

CASE FACTFROZEN正本に記載されたアステリア案件の事実

アステリア案件に関係する記載

  • アステリア株式会社:架空企業。業種は ITコンサルティング・システム開発
  • 売上高 約5,000億円、従業員 約4,000名
  • 大規模基幹システム刷新
  • M-6 構想開始、M0 正式キックオフ

正本にあるのは「大規模基幹システム刷新」を行うことまでです。刷新に至った理由、今のシステムが抱えていた課題、刷新以外の選択肢を検討したかどうかは、正本に記載がありません。未確定 上の表の例は教材上の例で、アステリア案件の課題ではありません。

6. THINK — 「保守が終わるので刷新します」

(教材上の例)構想の打ち合わせで、IT部門の担当者が次のように説明しました。

「今のシステムは、使っているソフトウェアの保守が数年後に終わります。だから刷新が必要です。」

問題

この説明だけで、刷新の理由として十分でしょうか。

判断例を開く

判断

きっかけとしては重要ですが、理由としてはまだ足りません。

確認すること:

  • 保守が終わると、業務のどこが、どのように困るのか
  • 保守の延長や、その部分だけの入れ替えなど、刷新以外の方法はないか
  • 刷新する場合、保守の問題を解消する以外に、業務の何を良くしたいのか
  • 業務の側の責任者は、この困りごとをどう見ているか

保守の終わりだけを理由にすると、「今と同じものを新しく作る」ことが目的になりがちです。業務の困りごとと合わせて、理由を組み立て直します。

7. よくある失敗

8. 成果物との接続

9. AI WORKFLOW — 困りごとを業務の言葉に言い換えさせる

AIは、聞き取りのメモから困りごとを取り出し、分類する下書きに役立ちます。

指示例:

「次の聞き取りメモから、今のシステムについての困りごとを取り出してください。それぞれについて、①業務のどこで困っているか、②メモに書かれた根拠、を表にしてください。メモに書かれていない影響や金額は書かず、空欄にしてください。刷新すべきかどうかは判断しないでください。」

10. REVIEW — AIの整理を確認する

  • 困りごとが、元のメモの言葉と合っているか
  • AIが、書かれていない影響の大きさを推測で書いていないか
  • 聞き取りの相手(業務の担当)に、整理の内容を確かめてもらったか
  • メモを AI に渡してよいか(社内の情報の扱い)を、事前に確かめたか

ADVANCED深掘り — 実務者向けに一段深く

深掘り — 「何もしない案」を基準線に置く

比べる相手は「何もしない」

刷新の理由を組み立てるとき、比べる相手を先に決めます。世界で共有されている考え方では、「何もしない案(現状維持)」を基準線に置きます。何もしないと、いつ、何が起きるか(保守が切れる、分かる人が退職する、手作業が増え続ける)を、年ごとに並べます。刷新の効果は、この基準線との差として書きます。基準線がないと、効果は「今よりよくなる」という漠然とした話になります。

遅らせる費用を見積もる

「今やるか、来年やるか」も判断の 1 つです。遅らせると、その間に手作業の費用と危険が積み上がります。この積み上がりを「遅延コスト」と呼びます。たとえば、手作業の補いに毎月一定の時間がかかっているなら、1 年遅らせた場合の時間の合計は計算できます(教材上の例)。遅延コストが見えると、「今でなくてもよい」という反対にも、数字で答えられます。

困りごとに重さを付ける

困りごとの一覧には、重さの違いがあります。「起きる確からしさ」と「起きたときの業務への影響」の 2 つで並べ替えると(03-07)、刷新の理由の中心に置く困りごとが決まります。すべてを同じ重さで並べると、承認する人には「困りごとが多い」ことしか伝わりません。

記録に残すもの

基準線の前提(保守の期限、人の見込み、手作業の時間の測り方)、遅延コストの計算、重さの付け方。あとで前提が変わったとき、どこが変わったかを説明できる形にします。

現場で確かめる問い

  • 「何もしない案」で、いつ何が起きるかを年ごとに書いたことがあるか
  • 手作業の補いにかかっている時間を測っているか。測っていないなら、何から測るか
  • 困りごとを、確からしさと影響の 2 つで並べ替えたか。中心に置く困りごとは何か
  • 基準線の前提のうち、来年には変わりそうなものはどれか

アステリア案件で刷新の理由がどう組み立てられ、何もしない案と比べたかどうかは、正本に記録がありません。記録なし

11. 人間が判断すること

  • どの困りごとを、刷新の理由として重く見るか
  • 刷新と、刷新以外の選択肢のどちらを選ぶか
  • 刷新に進むかどうか(投資承認は、AIへ最終委任しない事項です。正本の方針)

12. 判断演習

あなたは、刷新の構想をまとめる担当です。

業務の担当から「今のシステムは画面が古くて使いにくい」という声を聞きました。この声を、刷新の理由として使えるかどうかを判断するために、相手に聞き返す質問を3つ考えてください。

あなたの記録あなたの考え。事実ではありません

判断ノート

既定では保存しないため、ページを離れると消えます。

このユニットで覚えてほしいこと

「古い」は理由ではなく、業務の困りごとを探す入口です。

困りごとを業務の言葉で書き、やらない場合に何が起きるか、刷新以外の選択肢と比べてどうかまで示して、はじめて刷新の理由になります。

次に読むもの

本文で参照している成果物:BUS-001 現状課題一覧、BUS-002 システム投資企画書、BUS-003 プロジェクト対象範囲定義書

関連成果物:未確定(baselineに対応表なし)

関連危機演習:未確定(baselineに対応表なし)

学習状況

状態:未着手