このユニットの結論
重大な障害の対応では、全員がそれぞれの判断で動くと、作業がぶつかり、報告が抜け、何が起きているかを誰も説明できなくなります。
対応全体を指揮する役(指揮役)を1人決め、調査・作業、連絡、記録の役割を分けて、判断と変更を指揮役に集めることで、混乱の中でも対応を前に進めます。
1. 何の話か
このユニットは、障害対応の指揮の話です。
13-01 では、重大な障害では指揮役を決めることを学びました。このユニットでは、指揮役は何をする人なのか、ほかにどんな役割が必要なのか、複数の会社が関わるときにどうするのかを考えます。
指揮役は、英語で「インシデントコマンダー(Incident Commander)」と呼ばれることがあります。
2. なぜ必要か
指揮する人がいないと、
- 複数の人が同時に設定の変更や再起動をして、何が効いたのか分からなくなる
- 全員が調査に集中し、利用部門や経営層への報告が止まる
- 「誰かが判断するだろう」と、業務を止める・続けるなどの判断が遅れる
- 担当の会社や部門ごとに別々に動き、情報がつながらない
ということが起きます。
3. このユニットで分かること
- 指揮役がすること・しないこと
- 障害対応で分ける役割
- 指揮役の決め方と、引き継ぎ
- 障害対応の指揮で、AIに任せてよいことと人間が判断すること
4. 指揮役がすること・しないこと
| 指揮役がすること | 指揮役がしないこと |
|---|---|
| 状況をまとめ、今の優先順位を決める | 自分で調査や作業に深く入り込む |
| 誰が何をするかを割り当てる | 全員の作業を細かく指示し続ける |
| システムへの変更(再起動・設定の変更など)を、実施の前に確かめて許可する | 変更の中身を1人で考え出す |
| 決めるべき判断を、決める人に上げる。自分の権限の範囲は自分で決める | 権限の外の判断を、独断で行う |
| 次の報告の時刻を決め、守らせる | 報告を後回しにする |
指揮役は、技術にいちばん詳しい人である必要はありません。全体を見て、判断と変更を1か所に集める人です。詳しい人は、調査・作業に集中できるようにします。
5. 障害対応で分ける役割
一般的には、重大な障害では次の役割を分けます。小さな障害では、1人が複数の役割を兼ねることもあります。
- 指揮役:全体の指揮と判断
- 調査・作業の担当:原因の調査と、復旧のための作業(システムや会社ごとに複数)
- 連絡の担当:利用部門・経営層・取引先などへの報告と、問い合わせの窓口
- 記録の担当:時刻、分かったこと、行った作業、判断を時系列で記録する
誰が何の役割かを、対応に参加した全員が分かるようにします(連絡の場の最初に確かめる、など)。
6. 指揮役の決め方と引き継ぎ
- 誰が指揮役になるかは、障害が起きる前に決めておく(当番表など)
- 障害の重大度(13-02)によって、指揮役になる人の立場を変えることもある
- 対応が長引くときは、指揮役を交代する。交代するときは、状況・割り当て・未決の判断・次の報告の時刻を引き継ぎ、交代したことを全員に伝える
CASE FACTFROZEN正本に記載されたアステリア案件の事実
アステリア案件に関係する記載
- M18 本番稼働、M21 初期安定化完了
- P-011 山下 恵 — 本番移行・運用リーダー
- マルチベンダー。Vendor B / クラウドブリッジの担当範囲に監視が含まれる
- Vendor PM:P-A01 井上 健一(Vendor A)、P-B01 吉田 圭介(Vendor B)、P-C01 大森 裕(Vendor C)
- AIへ最終委任しないことに「重大障害判断」がある
アステリア案件の障害対応の体制、指揮役を誰が務めるか、各社の役割の分担は、正本に記載がありません。未確定 上の人物の役職から、指揮役を推測しません。
7. THINK — 全員が調べているが、誰も報告していない
障害の連絡の場に、複数の会社の担当者が集まりました。全員が自分の担当のシステムのログを調べています。30分たったころ、利用部門の責任者から電話がかかってきました。
「今どうなっているのか、誰からも連絡がありません。業務を止めて手作業に切り替えるべきですか。」
問題
この状況で、まず何をすべきでしょうか。
判断例を開く
判断
調査より先に、対応の体制を整えます。
確認すること:
- 指揮役は決まっているか。決まっていなければ、事前の決めごとに従って、すぐに決める
- 利用部門への連絡を、誰が担当するか
- 手作業への切り替えを判断するのは誰か。そのための情報(影響の範囲、復旧の見込み)を誰が集めるか
- 各社の担当が行おうとしている変更を、指揮役が把握しているか
全員が調査に入ると、判断と連絡が止まります。調査は大切ですが、調査だけでは業務側が次の行動を決められません。
8. よくある失敗
- 指揮役を決めないまま、詳しい人が自然に中心になり、その人が調査と指揮の両方を抱える
- 指揮役が作業に入り込み、全体が見えなくなる
- 各社・各部門が、指揮役を通さずにシステムを変更する
- 指揮役の交代を全員に伝えず、2人から違う指示が出る
- 記録の担当がおらず、あとで時系列を再現できない
9. 成果物との接続
- OPS-004 障害対応計画:指揮役の決め方、役割、連絡の経路を事前に決める
- OPS-005 障害報告書:誰が指揮し、誰が何を判断したかを記録する
- PRG-004 役割・責任分担表:平常時の役割と、判断を上げる先
復旧と原因調査の分け方は 13-04 復旧と原因調査は分けて考える で学びます。危機演習 CR12 本番初日に複合障害 では、稼働初日の障害の場面を体験します(学習上の接続です。正式な対応関係ではありません)。
10. AI WORKFLOW — 記録と報告の下書きを手伝わせる
AIは、記録の担当と連絡の担当を助ける下書きに役立ちます。
指示例:
「次の連絡の場のメモを、時刻・分かったこと・行った作業・判断・未決の事項に分けて時系列に並べてください。そのうえで、利用部門向けの状況報告の下書きを、分かっていること・分かっていないこと・次の報告の時刻の3つに分けて作ってください。原因は推定しないでください。」
11. REVIEW — AIの下書きを確認する
- 時系列が、元のメモと合っているか
- 報告の下書きに、確かめていないことが事実として書かれていないか
- 報告を送るかどうか、誰に送るかを、指揮役(または連絡の担当)が決めたか
12. 人間が判断すること
- 誰が指揮役を務めるか。いつ交代するか
- システムへの変更を許可するか
- 業務を止める・続ける、手作業に切り替えるなどの判断
- 重大障害として扱うか
重大障害判断は、AIへ最終委任しない事項です(正本の方針)。障害対応の最中でも、AIに与えた権限の範囲(09-06)を広げません。
13. 判断演習
あなたは、障害対応の指揮役を初めて務めることになりました。
連絡の場の最初の5分で、参加者全員に伝える・確かめることを4つ挙げてください。
あなたの記録あなたの考え。事実ではありません
判断ノート
このユニットで覚えてほしいこと
重大な障害では、指揮役を1人決め、役割を分け、判断と変更を指揮役に集めます。
指揮役は、いちばん詳しい人ではなく、全体を見て判断と報告を前に進める人です。