このユニットの結論
大規模なプロジェクトの遅れの多くは、作業の遅れではなく、決定の遅れから生まれます。
決めるべきことを一覧にし、起票から決定までの日数を測り、止まっている決定を毎週見えるようにすることで、遅れは「誰かが悪い」から「仕組みで動かせるもの」に変わります。
1. 何の話か
このユニットは、決定の速さを測り、遅い決定を仕組みで動かす話です。
03-03 誰が決め、誰が実行するのか では、決める人を決める大切さを学びました。決める人が決まっていても、決定は遅れます。情報が足りない、関係者の予定が合わない、誰も最初に手を挙げない。遅れを個人の責任にせず、測って見えるようにするのがこのユニットの主題です。
2. なぜ必要か
決定の遅さを測らないと、
- 作業は進んでいるのに全体が遅れている理由が、誰にも説明できない
- 決定を待っている人が、待っている間に仮の前提で作業を進め、あとでやり直しになる
- 「あの件はどうなった」が会議のたびに繰り返され、同じ説明が何度も行われる
ということが起きます。決定は作業と違って「進捗率」が見えにくいため、意識して測らないと管理から抜け落ちます。
3. このユニットで分かること
- 決定を一覧にする(決定のバックログ)
- 決定リードタイムの測り方
- 止まっている決定を動かす仕組み
4. 決定を一覧にする
決めるべきことを、課題と同じように一覧にします。世界で共有されている考え方では、この一覧を「決定のバックログ」と呼びます。1 件ごとに次を持ちます。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 決めること | 問いの形で書く(「請求の締め日をいつにするか」) |
| 決める人 | 役割で書く。承認が要るなら承認者も |
| 期限 | いつまでに決まらないと何が遅れるか(決めないことの影響) |
| 必要な材料 | 決めるために要る情報と、誰が用意するか |
| 選択肢 | 分かっている範囲の案 |
| 状態 | 材料待ち/議論中/決定済み/見送り |
| 起票日・決定日 | 日数を測るための日付 |
決定の結果は PRG-007 意思決定記録 に残し、一覧の「決定済み」から記録へつなぎます。
5. 決定リードタイムを測る
決定リードタイムは、起票日から決定日までの日数です。一覧があれば自動で測れます。見るのは平均ではなく、分布と「止まっているもの」です。
- 期限を過ぎて決まっていない決定が何件あるか
- 止まっている理由が「材料待ち」か「議論中」か「決める人が不在」か
- 材料待ちなら、材料を用意する人と期限が決まっているか
毎週の会議で、止まっている決定を上位から順に見ます。会議の目的は「状況を聞くこと」ではなく、「次の 1 週間で何があれば決まるかを決めること」です。期限を過ぎた決定は、03-05 プロジェクトの問題をどう管理するか と同じ考え方で、一段上へ上げる基準を決めておきます。
CASE FACTFROZEN正本に記載されたアステリア案件の事実
アステリア案件の決定に関する記載
- P-003 西村 俊介 — プログラムマネージャー、P-004 田辺 彩 — PMOリーダー、P-002 高瀬 真理 — CIO/IT統括責任者、P-001 佐伯 隆志 — CFO/プロジェクトスポンサー
- 成果物に PRG-007 意思決定記録、PRG-010 プロジェクト状況報告書 がある
- 投資承認・要件確定・設計承認・セキュリティ例外承認・本番移行承認・Go / No-Go・重大障害判断は、AIへ最終委任しない事項
アステリア案件で決定の一覧が作られていたか、決定にどれだけの日数がかかったか、誰が何を決めたかは、正本に記録がありません。記録なし
6. THINK — 「作業は順調なので全体も順調」
状況報告の会議で、各チームが「作業は順調」と報告しました。PMO の担当者が次のようにまとめました。
「全チームが順調なので、全体も順調です。」
問題
このまとめで報告してよいでしょうか。
判断例を開く
判断
作業の順調さと、決定の順調さは別です。各チームが仮の前提で作業を進めているなら、決定が出た瞬間にやり直しが起きます。
確認すること:
- 決定の一覧で、期限を過ぎて決まっていないものが何件あるか
- そのうち、各チームが仮の前提で作業を進めているものはどれか
- 止まっている理由は何か(材料待ち、議論中、決める人の不在)
- 次の 1 週間で何があれば決まるか、誰がそれを用意するか
「作業は順調」の報告に、「決定は何件止まっている」を並べて初めて、全体の状況になります。
7. よくある失敗
- 決定を課題や要望と混ぜて管理し、「決めるべきこと」が見えない
- 決定の期限を「決めないことの影響」から決めず、ずるずる延びる
- 会議で状況を聞くだけで、「次の 1 週間で何があれば決まるか」を決めずに終わる
- 決まったことが記録されず、同じことが再び議論される
8. 成果物との接続
- PRG-007 意思決定記録:決まったことと、その理由・条件を残す。決定の一覧の「決定済み」の先
- PRG-010 プロジェクト状況報告書:作業の進捗と並べて、止まっている決定の件数と内容を報告する
9. AI WORKFLOW — 議事録から「決めるべきこと」を拾わせる
AIは、会議の議事録から、決まっていないまま残っている論点を拾い、決定の一覧の候補にする下書きに役立ちます。
指示例:
「次の議事録から、『決める必要があるが決まっていない論点』を抜き出し、論点ごとに、決める人として誰が言及されているか、期限が言及されているか、必要な材料が言及されているかを表にしてください。言及がない項目は空欄のまま示し、決める人や期限を推測しないでください。」
10. REVIEW — AIの抜き出しを確認する
- 抜き出された論点が、議事録に実際にあるか
- 「決まっていない」と読んだものが、別の会議で決まっていないかを人が確かめたか
- 議事録を AI に渡してよいか(個人名・機密の扱い)を事前に確かめたか
11. 人間が判断すること
- 決定の期限を、何の影響から決めるか
- 止まっている決定を、いつ一段上へ上げるか
- 材料が足りないまま、仮で決めるか、待つか
要件確定・設計承認などは、AIへ最終委任しない事項です(正本の方針)。
12. 判断演習
あなたの職場で、最近「なかなか決まらなかったこと」を 1 つ思い出してください。
起票から決定までに何日かかったか(おおよそで構いません)、止まっていた理由は材料待ち・議論中・決める人の不在のどれだったか、「次の 1 週間で何があれば決まるか」を誰かが問うていたら何が変わったかを書いてください。
あなたの記録あなたの考え。事実ではありません
判断ノート
このユニットで覚えてほしいこと
遅れは決定から生まれる。決めるべきことを一覧にし、起票から決定までの日数を測り、止まっている決定を毎週動かす。作業の順調さと決定の順調さは別に報告する。