Unit 01-05(STAGE 01 の 5 / 7)

どこまでを今回の対象にするか

学習状況:未着手

このユニットの結論

大規模な刷新では、「やりたいこと」を全部入れると、いつまでも終わりません。

最初に決めるべきなのは、今回のプロジェクトで何を変え、何を変えないか(対象範囲)です。

対象範囲は、予算・期間・人員・リスクを決める土台であり、あとから入ってくる要望を判断する物差しにもなります。

1. 何の話か

このユニットは、プロジェクトの対象範囲(スコープ)の話です。

スコープとは、「今回のプロジェクトで扱うもの」と「扱わないもの」の境界線のことです。

経理の仕事にたとえると、決算作業で「今回の締めに含める取引」と「翌期に回す取引」を最初に決めるのに近い考え方です。境界があいまいなままだと、作業がいつまでも終わりません。

2. なぜ必要か

一般的に、刷新プロジェクトでは、次のような声が次々に出てきます。

一つひとつは正しい要望でも、全部を今回に入れると、

という形で、プロジェクト全体が崩れます。

3. このユニットで分かること

CASE FACTFROZEN正本に記載されたアステリア案件の事実

アステリア案件の規模

  • 大規模基幹システム刷新
  • 約120人規模のプロジェクト
  • 約1,500件の要件
  • 約36本のシステム連携
  • 10年分のデータ移行
  • M-6 構想開始、M0 正式キックオフ、M18 本番稼働

正本には、アステリア案件で「何を今回の対象とし、何を対象外にしたか」の一覧は記載されていません。未確定 このユニットでは、範囲を決める考え方を一般論として学びます。

4. 対象範囲は何に効くのか

対象範囲は、後の工程すべての前提になります。

  1. 対象範囲
  2. 要件
  3. 設計
  4. 開発
  5. テスト
  6. データ移行
  7. 本番切替

たとえば、ある業務を「今回の対象」に入れると、その業務の要件・画面・データ・他システムとの連携・テスト・移行手順が、すべて今回の作業になります。

逆に「対象外」とした業務は、今回は作りません。ただし、対象外の業務が新システムのデータを使うなら、そのつなぎ目は今回考える必要があります。

5. 「今回・次期・対象外」に分ける

実務では、要望を次の3つに分けて整理することがよくあります。

区分 意味 例(教材上の例)
今回 このプロジェクトで実現する 本番稼働に必須の業務
次期 価値はあるが、今回は見送る 稼働後の改善として扱う帳票
対象外 このプロジェクトでは扱わない 別の取り組みで扱う業務

大切なのは、区分そのものより、どの基準で分けたかを残すことです。基準がないと、同じ要望が会議のたびに蒸し返されます。

6. THINK — 「ついでに」の要望

要件定義の途中で、ある部門から、

「新システムになるなら、今の月次集計表も全部作り直してほしい」

という要望が出ました。

問題

この要望を、今回の対象に入れるかどうかを、どう判断しますか。

判断例を開く

判断

すぐに「入れる」「入れない」を答えません。

まず確認すること:

  • その集計表がないと、本番稼働後の業務が止まるか
  • 今の集計表のどこに不満があるのか(作り直しが必要か、移すだけでよいか)
  • 入れた場合、要件・テスト・移行がどれだけ増えるか
  • 次期に回した場合、業務側にどんな回避策があるか

そのうえで、範囲を決める権限を持つ人が判断します。判断と理由は記録に残します。

7. よくある失敗

8. 成果物との接続

危機演習 CR01 要件定義が終わらない では、要件定義が終わらない状況を体験します(学習上の接続です。正式な対応関係ではありません)。

9. AI WORKFLOW — 要望を整理させる

AIは、大量の要望を整理するのに役立ちます。

AIに渡すもの:

  • 要望の一覧
  • プロジェクトの目的
  • すでに決まっている対象範囲の考え方

指示例:

「次の要望一覧を、①業務が止まるかどうか、②新システムで扱うデータに関係するか、③他の要望と重複しているか、の観点で分類してください。今回・次期・対象外の判断はせず、判断材料だけを示してください。」

10. REVIEW — AIの分類を確認する

AIの分類は、判断の下書きです。

確認すること:

  • 要望の意味を取り違えていないか
  • 重複とされた要望が、本当に同じ内容か
  • 業務への影響を、AIが推測で決めていないか
  • 元の要望の出どころ(誰が、なぜ)が失われていないか

ADVANCED深掘り — 実務者向けに一段深く

深掘り — 範囲の基準線と、広がりの測り方

範囲を作業に分解する

対象範囲を文章で書くだけでは、人によって読み方が変わります。範囲を、作る成果物と作業に分解して木の形に並べると、何が入っていて何が入っていないかが一目で分かります。世界で共有されている考え方では、この分解を WBS(作業分解構成)と呼びます。分解の原則は、枝を全部足すと親と同じになり、足りないものも余るものもないことです。枝に現れない作業は、範囲に入っていない、と読みます。

基準線を決め、差分で管理する

分解した範囲を、ある時点で承認して固定します。これが範囲の基準線です。以後、範囲が変わるときは、基準線との差分として変更を記録します(04-06)。基準線がないと、「最初からそのつもりだった」「そんな話は聞いていない」の水掛け論になります。

広がりを数える

範囲は、気づかないうちに広がります。世界で共有されている考え方では「スコープクリープ」と呼ばれます。測り方は、基準線のあとに足された項目の数、それによって増えた作業の見積もり、承認を経ずに入った項目の数です。月ごとに数えて並べると、広がりが加速している時期が分かります。加速しているなら、範囲を決める権限と手続きが機能していない印です。

「対象外」は書いて残す

対象外の業務を一覧から消すのではなく、「対象外」と書いて残します。なぜ対象外にしたか、対象外の業務と新システムのつなぎ目をどう扱うかも添えます。残っていれば、同じ要望が来たときに、前回の判断を指して答えられます。

現場で確かめる問い

  • 範囲は、成果物と作業に分解されているか。分解に現れない作業で、誰かが「当然やる」と思っているものはないか
  • 範囲の基準線は、いつ、誰の承認で固定されたか
  • 基準線のあとに足された項目を数えているか。承認を経ずに入った項目はないか
  • 対象外にしたものと、その理由、つなぎ目の扱いが文書に残っているか

アステリア案件の範囲の分解、基準線の時点、基準線のあとに足された項目は、正本に記録がありません。記録なし

11. 人間が判断すること

  • 何を今回の対象とし、何を次期・対象外とするか
  • 範囲を変えたとき、期間・費用・体制をどう見直すか
  • 対象外とした業務の関係者に、どう説明するか

範囲の判断は、プロジェクトの目的と責任に直結します。AIに最終決定を任せません。

12. 判断演習

あなたは、要望の整理を任されました。

「今回」に入れたい要望が、予定の2倍に増えています。

あなたなら、判断する人に何を示しますか。

  • 要望ごとの、業務への影響
  • 今回に入れた場合に増える作業
  • 次期に回した場合の回避策
  • 範囲を決める基準

「全部入れる」「全部断る」ではなく、判断できる材料をそろえることが役割です。

あなたの記録あなたの考え。事実ではありません

判断ノート

既定では保存しないため、ページを離れると消えます。

このユニットで覚えてほしいこと

対象範囲は、プロジェクトの物差しです。

何を今回やり、何をやらないかを先に決め、その理由を残すことで、あとから来る要望を判断できるようになります。

次に読むもの

本文で参照している成果物:BUS-003 プロジェクト対象範囲定義書、BUS-002 システム投資企画書、REQ-002 要件一覧

関連成果物:未確定(baselineに対応表なし)

関連危機演習:未確定(baselineに対応表なし)

学習状況

状態:未着手