このユニットの結論
システムにかかるお金は、作るときの費用だけではありません。
作る前の準備から、移す・教える・使い続ける・更新する、そしていつか止めるまでの費用を、年ごとに並べて考えることが大切です。開発費だけで判断すると、稼働したあとに毎年かかる費用で計画が崩れます。
1. 何の話か
このユニットは、システムの一生にかかる費用の話です。
家を買うときに、買う値段だけでなく、固定資産税・修繕・光熱費・いずれ来る建て替えまで考えるのと同じです。システムも、稼働した日から毎年お金がかかり続けます。
2. なぜ必要か
開発費だけで投資を判断すると、一般的に次のことが起きます。
- 稼働したあとの保守・利用料が予算に入っておらず、毎年の予算を圧迫する
- 移行や教育の費用が抜けていて、プロジェクトの途中で追加の承認が必要になる
- 見積もりが安い提案を選んだが、使い続ける費用で高くつく(02-04)
- 社内の人がかける時間が見えず、業務の側に無理がかかる
3. このユニットで分かること
- システムの一生のどこで、どんな費用がかかるか
- 見落としやすい費用
- 費用の整理で、AIに任せてよいことと人間が決めること
4. システムの一生と費用
- 企画・選定
- 設計・開発・テスト
- 移行・切替
- 教育
- 運用・保守
- 更新
- 停止・入れ替え
| 時期 | 費用の例(一般的な例) | 見落としやすさ |
|---|---|---|
| 企画・選定 | 構想づくり、提案依頼、ベンダーの評価にかかる社内外の人の時間 | 見落としやすい |
| 設計・開発・テスト | ベンダーへの支払い、テスト用の環境 | 見落としにくい |
| 移行・切替 | データ移行、移行のリハーサル、切替の当日の体制、旧システムとしばらく並べて動かす費用 | 見落としやすい |
| 教育 | 利用者への説明、手順書づくり、問い合わせの窓口 | 見落としやすい |
| 運用・保守 | 監視、障害への対応、小さな改修、利用料(毎年かかる) | 見落としやすい |
| 更新 | ソフトウェアの更新、提供元の支援の期限に合わせた入れ替え、機器の入れ替え | 最も見落としやすい |
| 停止・入れ替え | 旧システムの停止、データの保管、次の刷新への移行 | 最も見落としやすい |
「更新」の費用は、稼働してから何年もたってから来るため、企画の時点では忘れられがちです。しかし、使っているソフトウェアには、提供元の支援が受けられる期限があります。その期限が来るたびに、更新の作業と費用が発生します。
5. 社内の人の時間も費用
ベンダーへの支払いと同じくらい見落とされるのが、社内の人の時間です。
- 業務の担当が、要件を説明し、確かめる時間
- 利用部門が、テストに参加する時間
- 移行のために、データを確かめ、直す時間
- 稼働直後に、慣れない操作で業務が遅くなる時間
これらは請求書が来ないため、予算に入らないことがよくあります。しかし、業務の担当がプロジェクトに時間を使えば、その間の通常の業務を誰かが補う必要があります。
6. 年ごとに並べてみる(教材上の例)
次は考え方を学ぶための架空の例です。金額ではなく、比べやすいように相対的な値で示します。
- 開発の費用を 100 とする
- 移行・教育・社内の人の時間を合わせて 30 とする
- 稼働後の運用・保守・利用料が、毎年 15 かかるとする
この前提で、稼働後 5 年間を合わせると、100 + 30 + 15 × 5 = 205 になり、開発の費用の 2 倍を超えます。開発費だけを見て判断すると、全体の半分以下しか見ていないことになります。
会計の上で、どの費用をソフトウェアの資産として扱い、どの費用をその年の費用として扱うかは、会社の会計の方針によって決まります。企画の段階で、経理の担当と確かめておきます。
CASE FACTFROZEN正本に記載されたアステリア案件の事実
アステリア案件に関係する記載
- 大規模基幹システム刷新、約120人規模のプロジェクト
- 10年分のデータ移行
- マルチベンダー。Vendor D / タイムリンク — 勤怠・工数管理SaaS
- M18 本番稼働、M21 初期安定化完了
アステリア案件の費用の総額、内訳、毎年の運用・保守の費用、利用料の金額は、正本に記載がありません。未確定 上の表と計算は教材上の例で、アステリア案件の費用ではありません。
7. THINK — 「稼働後の費用は、そのときに考えます」
(教材上の例)企画の会議で、費用の説明のあとに次の発言がありました。
「稼働後の保守や利用料は、毎年の運用の予算で対応するので、今回の投資の企画には入れなくてよいと思います。」
問題
この考え方で、投資の企画を進めてよいでしょうか。
判断例を開く
判断
このままでは進められません。
確認すること:
- 稼働後に毎年かかる費用は、どれだけか
- その費用を、毎年の運用の予算で本当にまかなえるか。予算を持つ部門は了解しているか
- 今のシステムの保守の費用がなくなる分と、新しく増える分を比べたか
- 投資対効果の計算(01-03)に、稼働後の費用が入っているか
どの予算から払うかと、投資の判断に入れるかは別の話です。投資の判断には、稼働後の費用も含めて示します。
8. よくある失敗
- 開発費だけで投資を判断する
- 利用料など、毎年かかる費用を、初年度の分しか入れない
- 更新や入れ替えの費用を、企画の時点で考えない
- 社内の人の時間を費用として数えない
- 旧システムを止めるまでの並行期間の費用を忘れる
9. 成果物との接続
- BUS-002 システム投資企画書:開発・移行・運用・利用料・社内の人に分けて、総額を示す
- BUS-005 提案依頼書(RFP):稼働後の費用まで含めた見積もりを、同じ前提で出してもらう
- BUS-006 ベンダー評価表:費用を、同じ前提と期間で比べる
10. AI WORKFLOW — 抜けている費用を探させる
AIは、費用の一覧の抜けを探す下書きに役立ちます。
指示例:
「次の費用の一覧を、企画・選定、開発、移行・切替、教育、運用・保守、更新、停止の時期に分けて並べてください。どの時期にも入っていない費用がありそうな箇所を、確かめるべき問いとして挙げてください。金額は補わないでください。」
11. REVIEW — AIの整理を確認する
- 費用の分け方が、元の一覧と合っているか
- AIが、金額や年数を推測で書き足していないか
- 挙げられた問いを、見積もりを作った人や経理の担当に確かめたか
ADVANCED深掘り — 実務者向けに一段深く
深掘り — 見積もりの幅と、予備費
企画の時点の見積もりは幅を持つ
企画の段階では、何を作るかが決まっていないため、費用の見積もりは当たりません。世界で共有されている考え方では、見積もりの誤差は工程が進むにつれて狭まる、という形で語られ、「不確実性のコーン」と呼ばれます。企画の時点の見積もりは、1 つの数字ではなく、「下限〜上限」の幅で示します。幅を示さずに 1 つの数字で承認を取ると、その数字が約束になり、あとで幅の分だけ「超過」と呼ばれます。
幅の出どころを書く
幅は、根拠のない上乗せではありません。「要件の数が増えるかもしれない」「移すデータの品質が分からない」「ベンダーの単価が未定」のように、幅の出どころを項目ごとに書きます。出どころが書かれていれば、工程が進んで分かったことから、幅を狭められます。
予備費は別の枠で持つ
分かっている費用の上に、分かっていないことに備える枠を持ちます。これを予備費(コンティンジェンシー)と呼びます。予備費は、各項目の見積もりに薄く混ぜるのではなく、別の枠として示し、使うときには理由と承認を残します。混ぜてしまうと、どこまでが見積もりで、どこからが備えかが分からなくなり、使ったかどうかも追えません。
年ごとの費用にも幅がある
稼働後の運用・保守・利用料にも幅があります。利用料は、利用者の数やデータの量で変わる形が多く、増え方の前提を書いておきます。更新の費用は、提供元の支援の期限から逆算して、どの年に来るかを置きます。
現場で確かめる問い
- 企画書の費用は、1 つの数字か、幅か。幅なら、出どころが項目ごとに書かれているか
- 予備費は別の枠として示されているか。使うときの承認の手続きは決まっているか
- 利用料の増え方の前提(利用者の数、データの量)が書かれているか
- 工程が進んで分かったことから、幅を狭める見直しをしているか
アステリア案件の費用の見積もりの幅、予備費の有無、利用料の前提は、正本に記録がありません。記録なし
12. 人間が判断すること
- どこまでの費用を、投資の判断に含めるか
- 稼働後の費用を、どの予算でまかなうか
- 費用の会計上の扱い(経理の担当と決める)
13. 判断演習
あなたは、投資の企画書の費用の欄を点検する担当です。
費用の欄には「開発費」と「ベンダーの保守費(初年度のみ)」だけが書かれています。追加で確かめるべき費用を、時期ごとに3つ以上挙げてください。
あなたの記録あなたの考え。事実ではありません
判断ノート
このユニットで覚えてほしいこと
システムの費用は、作る・移す・教える・使い続ける・更新する・止めるまでの一生で考えます。
年ごとに並べ、社内の人の時間も含めることで、開発費だけでは見えない本当の費用が分かります。