このユニットの結論
システムの費用は、作るときの金額で終わりません。
動かし続ける費用、直し続ける費用、人の費用、いつか作り直す費用を、10 年のような期間で積み上げて初めて、投資の本当の大きさが分かります。開発費だけを比べて安い案を選ぶと、10 年では高くつくことがあります。
1. 何の話か
このユニットは、システムにかかる費用を期間で見る話です。
01-04 システムの費用は開発費だけではない では、開発費のほかにどんな費用があるかを学びました。ここでは、それらを何年分積み上げ、どう比べるかを扱います。世界で共有されている考え方では、所有している間にかかる費用の合計を「総保有コスト(TCO)」と呼びます。
2. なぜ必要か
開発費だけで判断すると、
- 開発は安いが、毎年の利用料や保守料が高い案を選んでしまう
- 稼働後に必要な人(運用、問い合わせ対応、改修)の費用が予算に入っておらず、稼働後に慌てる
- 部品の保守が終わる時期の作り直し費用を見込まず、数年後に突然大きな費用が出る
ということが起きます。経営層が「結局いくらかかるのか」と聞くのは、この合計を知りたいからです。
3. このユニットで分かること
- 期間で見るときに、どんな費用を数えるか
- 「10 年」のような期間をどう決めるか
- 案を比べるときの落とし穴
4. 期間で積み上げる費用の種類
一般的には、次の種類を期間で積み上げます。
| 種類 | 中身(一般的な例) | 見落としやすい点 |
|---|---|---|
| 作る費用 | 要件定義、設計、開発、テスト、移行、導入支援 | 社内の人が使う時間(業務部門のレビュー、テスト参加) |
| 動かす費用 | 基盤の利用料、ソフトウェアの利用料・保守料、通信 | 利用者やデータが増えると増える費用 |
| 支える費用 | 運用の当番、問い合わせ窓口、監視、セキュリティ対応 | 稼働直後の特別体制、教育 |
| 直す費用 | 法令や制度の変更対応、業務の変更対応、不具合の修正 | 年に一定割合は必ず発生する |
| 更新する費用 | 部品の保守終了に伴う更新、数年ごとの大きな改修 | 時期が読みにくく、予算から抜けやすい |
| 終わらせる費用 | 旧システムの停止、データの保管、契約の解約 | 旧システムを並行して動かす期間の二重費用 |
5. 期間と比べ方
期間は、システムを使い続ける想定の年数で決めます。基幹システムでは 10 年前後を置くことが多いですが、業務や技術の変化が速い領域では短くします。期間を長くするほど合計は大きく見え、短くするほど更新の費用が見えなくなります。期間は比べる案の間でそろえます。
比べ方の落とし穴は 3 つです。
- 案ごとに数えている費用の種類が違う(片方だけ社内の人の時間を入れている)
- 将来の費用を今の金額のまま足している(01-03 投資対効果をどう考えるか の割引の考え方)
- 一番大きい前提(利用者数、データ量、改修の頻度)を 1 つの値で置き、幅を見ていない
CASE FACTFROZEN正本に記載されたアステリア案件の事実
アステリア案件の規模と期間に関する記載
- 大規模基幹システム刷新。約120人規模のプロジェクト、約1,500件の要件、約36本のシステム連携、10年分のデータ移行、マルチベンダー、AI活用あり
- M-6 構想開始、M0 正式キックオフ、M18 本番稼働、M21 初期安定化完了
- システムに SYS-03 勤怠・工数管理SaaS(外部サービスとして利用。Vendor D タイムリンクの担当範囲)がある
- P-001 佐伯 隆志 — CFO/プロジェクトスポンサー
アステリア案件の投資額、年間の運用費、想定した利用期間、総保有コストの見積もりは、正本に記録がありません。記録なし 「10年分のデータ移行」は移すデータの期間であり、システムを使う期間ではありません。
6. THINK — 「開発費が 3 割安い案にする」
ベンダー選定の会議で、次の意見が出ました。
「B 案は開発費が A 案より 3 割安い。同じ要件を満たすなら、B 案にしない理由はない。」
問題
この比べ方で B 案を選んでよいでしょうか。
判断例を開く
判断
開発費は、期間で積み上げた費用の一部にすぎません。
確認すること:
- 両案で、毎年の利用料・保守料はいくらか。期間で積むとどちらが大きいか
- 稼働後に必要な人の数(運用、問い合わせ、改修)は両案で同じか
- 部品の保守が終わる時期と、更新の費用は両案で同じか
- 両案で数えている費用の種類がそろっているか
- 利用者数やデータ量が増えたとき、費用はどちらがどれだけ増えるか
3 割の差が 10 年で逆転することは珍しくありません。開発費の比較は「比べ始めの数字」であって、「決める数字」ではありません。
7. よくある失敗
- 開発費だけの見積もりで投資を承認し、稼働後の費用を毎年の予算で「想定外」として扱う
- 社内の人が使う時間を費用に数えず、業務部門の負担が見えない
- 外部サービスの利用料を「月額だから小さい」と見て、期間の全体で積まない
- 旧システムを止める費用と、並行して動かす期間の二重費用を忘れる
8. 成果物との接続
- BUS-002 システム投資企画書:投資額と効果を経営層に示す文書。期間で積んだ費用がここに載る
- BUS-004 効果測定指標一覧:費用に見合う効果を、何で測るかを決める
費用を期間で見るなら、効果も同じ期間で見ます。片方だけ 10 年、片方だけ初年度では比べられません。
9. AI WORKFLOW — 費用の種類の抜けを探させる
AIは、見積書や企画書の費用の内訳を、上の 6 種類に分類し、空いている種類を見つける下書きに役立ちます。
指示例:
「次の見積もりの内訳を、作る・動かす・支える・直す・更新する・終わらせる の 6 種類に分類してください。どの種類にも当たる項目がない場合は、その種類を『記載なし』と示してください。金額を推定して埋めたり、妥当性を評価したりしないでください。」
10. REVIEW — AIの分類を確認する
- AIの分類が、見積もりの項目の意味と合っているか
- 「記載なし」とされた種類について、本当に費用が発生しないのかを人が確かめたか
- 見積書を AI に渡してよいか(金額・契約の扱い)を事前に確かめたか
11. 人間が判断すること
- 期間を何年に置くか
- どの費用の種類まで数えるか
- 期間で見た合計と効果を比べて、投資するか
投資承認は、AIへ最終委任しない事項です(正本の方針)。
12. 判断演習
身近な例(たとえば自動車、住まい、家電のどれか)を 1 つ選んでください。
買うときの金額のほかに、持ち続ける間にかかる費用の種類を 5 つ以上挙げ、「買うときの金額だけで比べると判断を誤る場面」を 1 つ書いてください。システムの費用と、どこが同じでどこが違うかも考えてください。
あなたの記録あなたの考え。事実ではありません
判断ノート
このユニットで覚えてほしいこと
費用は期間で積む。作る・動かす・支える・直す・更新する・終わらせる、の 6 種類を同じ期間で数え、案の間で種類をそろえて比べる。