これは何か
プロジェクト対象範囲定義書は、このプロジェクトで何を変え、何を変えないかを、業務・システム・データ・連携・組織の切り口で書き、分けた理由とともに承認を受ける成果物です。
刷新が始まると、「せっかくだからこれも」という要望が必ず出てきます。そのたびに一から議論していると、プロジェクトは進みません。対象範囲定義書は、そうした要望を判断するときの物差しになります(01-05 どこまでを今回の対象にするか)。
なぜ作るか
- 何を今回つくり、何を次期に回し、何を扱わないかを、全員が同じ言葉で確かめられる
- 要件・テスト・移行・費用の見積もりの前提を1か所にまとめる
- 対象外にしたものの理由を残し、同じ議論を繰り返さない
- 対象外の業務や仕組みと、新しいシステムとの「つなぎ目」を忘れない
誰が使うか・いつ作るか
- 作る人:企画の担当と PMO が下書きし、業務の各部門が中身を確かめる
- 承認する人:一般的には、投資と範囲に責任を持つスポンサーなど、プロジェクトで決めた人
- 使う人:要件を取りまとめる担当、ベンダー、見積もり・計画の担当
- 一般的には、投資企画書(BUS-002)の範囲を引き継いで、要件定義を始める前に作ります。範囲を変えるときは、変更の手続きを通して改訂します
- アステリア案件の対象範囲定義書の中身・作成者・承認者は、正本に記載がありません。未確定
関係する成果物との違い
- 投資企画書(BUS-002):なぜこの範囲に投資するかを経営に説明する。範囲は大づかみ
- 対象範囲定義書:範囲を、要件や見積もりの前提として使える細かさで書く
- 要件確定記録(REQ-006):範囲の中の個々の要件を「これで作る」と確定した記録。対象範囲定義書は、その手前で「どこまでが要件を作る対象か」を決める
- 変更管理台帳(PRG-008):範囲を含む変更の依頼を1件ずつ追う。範囲を変えると決まったら、対象範囲定義書を改訂する
CASE FACTFROZEN正本に記載されたアステリア案件の事実
範囲に関係する記載
- 大規模基幹システム刷新
- 約1,500件の要件、約36本のシステム連携、10年分のデータ移行
- システムは SYS-01〜SYS-11 の11、Vendor は4社
- データの正本(どのシステムが正式な持ち主か)が、顧客・契約・社員・工数・案件・請求などについて定められている
- M-6 構想開始、M0 正式キックオフ、M18 本番稼働
正本にあるのは規模とシステム・データの構成です。どの業務を今回の対象とし、何を次期・対象外にしたかは、正本に記載がありません。未確定 「10年分のデータ移行」は移行の規模の記載で、どのデータを移すかの範囲の定義ではありません。
主な項目
- 目的とのつながり:投資企画書のどの目的のための範囲か
- 対象の切り口:業務・システム・データ・連携・組織や拠点
- 区分:今回・次期・対象外
- 区分の理由:なぜその区分にしたか
- つなぎ目:対象外のものと新しいシステムの間で、今回扱う受け渡し
- 前提:この範囲が成り立つための前提(他の取り組みの予定など)
- 承認と版:承認した人・日付・版、改訂の履歴
教材用サンプル成果物の読み方を学ぶための例
教材用サンプル — 範囲の定義の一部
この成果物は学習用サンプルです。FROZEN正本に記載されたCASE FACTと、成果物の読み方を学ぶための教材用サンプル値を区別して表示しています。
内容はすべて教材上の架空の例で、アステリア案件の記録ではありません。
| 番号 | 切り口 | 対象 | 区分 | 理由 | つなぎ目 |
|---|---|---|---|---|---|
| SCOPE-EX-01 | 業務 | 案件ごとの工数の集計 | 今回 | 投資の目的(案件ごとの採算を見る)に直結する | ― |
| SCOPE-EX-02 | 業務 | 出張の経費の申請 | 次期 | 目的との関係が弱く、今の仕組みで業務は回る | 案件ごとに経費を集計できるよう、案件番号の受け渡しは今回つくる |
| SCOPE-EX-03 | システム | 社内の文書管理の仕組み | 対象外 | 別の取り組みで扱う | ― |
| SCOPE-EX-04 | データ | 保存の義務が終わった古い記録 | 対象外 | 新しいシステムで使わない。旧システムの側で保管の方法を決める | 保管の担当への引き継ぎを今回行う |
SCOPE-EX-02 は、業務としては次期でも、つなぎ目の部分だけは今回の作業になる例です。
読み方
- 対象外と次期の行に、理由が書かれているか
- 次期・対象外の行に、今回扱うつなぎ目が書かれているか
- 切り口(業務・システム・データ・連携)に抜けがないか
- 承認された版か、下書きか
書き方
- 投資企画書の目的と範囲を引き継ぐ
- 業務・システム・データ・連携・組織の切り口ごとに、対象の候補を並べる
- 候補ごとに区分と理由を書く。理由は「目的とのつながり」と「業務が回るか」で書くと、後で説明しやすい
- 次期・対象外のものについて、つなぎ目を洗い出す
- 範囲に責任を持つ人の承認を受け、版を付けて全員が読める場所に置く
何を書いてはいけないか
- 「業務全般」「必要な機能一式」のような、境目の引けない書き方
- 理由のない「対象外」
- 承認されていない範囲を、決まったものとして配ること
どこを見るか
- 範囲が、投資の目的とつながっているか
- 対象外・次期に、理由と受け皿(どこで扱うか)が書かれているか
- つなぎ目が今回の作業として書かれているか
- 範囲を変えるときの手続きが示されているか
- 承認と版があるか
赤信号
- 「今回」の行しかなく、次期・対象外が1行もない
- 要件の数が増えても、範囲の定義書が一度も改訂されていない
- ベンダーの見積もりの前提と、定義書の範囲が食い違っている
- 対象外にした業務の担当部門が、そのことを知らない
よくある失敗
- 範囲を会議の雰囲気で決め、文書にしない
- 範囲を広げたのに、期間と費用を見直さない
- 対象外にした業務と新しいシステムのつなぎ目を忘れ、稼働の直前に気づく
関係するUnit・成果物・危機演習
- Unit:01-05 どこまでを今回の対象にするか、04-01 要望と要件は何が違うのか、04-06 途中で要件が変わったらどうするのか
- 成果物:BUS-002 システム投資企画書、PRG-001 プロジェクト憲章、REQ-002 要件一覧、REQ-006 要件確定記録、PRG-008 変更管理台帳
- 危機演習:この成果物を直接の題材にする危機演習はありません
AI WORKFLOW
AIは、範囲の定義と要望の突き合わせの下書きに役立ちます。
「次の対象範囲定義書と要望の一覧を比べ、要望ごとに、定義書のどの行に当たるか、どの行にも当たらないかを示してください。今回・次期・対象外の区分は決めず、当たる行がない要望は『定義書に記載なし』としてください。」
REVIEW
- AIが当てはめた行が、要望の意味と本当に合っているか
- 「定義書に記載なし」の要望を、担当が確かめたか
- AIが区分や理由を書き足していないか
人間が判断すること
- 何を今回・次期・対象外にするか。その理由
- 範囲を広げるときに、期間・費用・体制をどう見直すか
- 対象外にした業務の関係者に、どう説明するか
範囲の判断は、プロジェクトの目的と責任に直結します。AIに最終決定を任せません。
いつ使うか
この教材では STAGE 01|なぜ数十億円を使うのか の文脈で扱います。 アステリア案件での正式な作成・使用時期(月)は正本に記載がないため、未確定としています。
最後の問い
この定義書を読んだ人は、新しく出てきた要望について「今回の範囲の中か外か」を、定義書の言葉を根拠に説明できますか?