このユニットの結論
本番切替では、「うまくいかなかったときに元に戻す」準備が欠かせません。
戻す手順・戻すと決める条件・戻せなくなる地点・戻すのにかかる時間を、切替の前に決めて練習しておくことで、当日の判断ができるようになります。
1. 何の話か
このユニットは、切り戻し(本番切替を中止して、元のシステムでの業務に戻すこと)の話です。
12-01 本番切替計画とは何か では、切り戻し(Rollback / Backout)と、ここを超えると簡単には戻れない地点(Point of No Return)を学びました。このユニットでは、それを計画として書くことを考えます。
2. なぜ必要か
切り戻しの計画がないと、切替の当日に問題が起きたとき、
- 続けるか戻すかを、その場の雰囲気で決める
- 戻すと決めても、手順が分からず時間がかかる
- 戻せなくなる地点を知らずに、先へ進んでしまう
ということが起きます。
3. このユニットで分かること
- 切り戻し計画に書くこと
- 戻せなくなる地点の考え方
- 切り戻しの判断で、人間が決めること
4. 切り戻し計画に書くこと(一般的な例)
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 戻すと決める条件 | どんな状態になったら戻すか。いつまでに判断するか |
| 判断する人 | 続けるか戻すかを、誰が決めるか |
| 戻す手順 | 何を、どの順で元に戻すか |
| 戻すのにかかる時間 | 手順全体で、どれくらいかかるか |
| 戻せなくなる地点 | どの作業を超えると、簡単には戻れなくなるか |
| 戻したあとの業務 | 元のシステムで業務を再開する手順と、関係者への連絡 |
| 練習の結果 | リハーサルで、実際に戻せたか、何分かかったか |
戻すのにかかる時間が分からないと、「何時までに判断すれば間に合うか」が決まりません。
5. 戻せなくなる地点
一般的に、次のような作業のあとは、簡単には戻れなくなります。
- 新システムで、新しい業務データが作られ始めた
- 他のシステムや取引先が、新システムにつなぎ替えた
- 利用者に、新システムの利用を開始した
切り戻し計画では、この地点の手前に、続けるか戻すかの判断の時点を置きます。
CASE FACTFROZEN正本に記載されたアステリア案件の事実
アステリア案件に関係する記載
- M18 本番稼働
- P-011 山下 恵 — 本番移行・運用リーダー
- AIへ最終委任しないことに「本番移行承認」「Go / No-Go」がある
- 成果物に CUT-001 本番切替計画書、CUT-003 切り戻し計画書、CUT-004 本番切替リハーサル結果がある
アステリア案件の切り戻しの条件・手順・所要時間・判断者は、正本に記載がありません。未確定
6. THINK — 戻す手順は「逆にやる」
切り戻し計画の欄に、「切替の手順を逆の順で実行する」とだけ書かれていました。
問題
この計画で、当日に戻せるでしょうか。
判断例を開く
判断
戻せるとは言えません。
確認すること:
- 逆の順で実行できない作業(取り消せない作業)はないか
- 戻すのに何分かかるか、練習で確かめたか
- 戻すと決める条件と、判断の期限は決まっているか
- 戻したあと、業務と関係者に何をするか
「逆にやる」は手順の方針であって、計画ではありません。
7. よくある失敗
- 切替の手順は練習するが、切り戻しは練習しない
- 戻すと決める条件と、判断の期限がない
- 戻せなくなる地点を、計画に書いていない
- 戻したあとの業務の再開手順がない
8. 成果物との接続
- CUT-003 切り戻し計画書:戻す条件・手順・時間・判断者を書く
- CUT-001 本番切替計画書:切替全体の計画
- CUT-004 本番切替リハーサル結果:切替と切り戻しを練習した結果
危機演習 CR09 本番移行が計画時間を超過 では、切替の当日に続けるか戻すかを考える場面を体験します(学習上の接続です。正式な対応関係ではありません)。
9. AI WORKFLOW — 計画の抜けを探させる
指示例:
「次の切り戻し計画を確認し、①戻すと決める条件、②判断の期限、③戻す手順の各作業の所要時間、④取り消せない作業、⑤戻したあとの業務の再開手順、のうち書かれていない項目を挙げてください。所要時間や条件の値は提案しないでください。」
10. REVIEW — AIの指摘を確認する
- 指摘された抜けが、別の文書(切替計画など)で決まっていないか
- AIが所要時間を一般的な値で埋めていないか
- 練習の結果と、計画の内容が食い違っていないか
ADVANCED深掘り — 実務者向けに一段深く
深掘り — 戻れなくなる点と、不可逆な操作
戻れなくなる点を先に見つける
切替の手順のどこかに、「ここを過ぎたら、旧システムに戻すより前に進む方が安全」という時点があります。この点を事前に特定し、手順書に明記します。さらに、その点に達する前に「進むか戻るか」を判定する時刻と、判定する人を決めておきます。点を知らずに進むと、戻せると思っていた時点で戻せなくなります。
不可逆な操作を一覧にする
旧データの削除、取引先や利用者への切替の通知、相手システムへの切替の依頼、新しい番号の採番の開始。これらは一度行うと元に戻せません。一覧にして、戻れなくなる点の「後」に並べます。前に置かざるを得ないものは、戻すときの手当て(通知の取り消し文、番号の欠番の扱い)を別に用意します。
戻す手順は使われないから練習されない
戻す手順は、うまくいけば使いません。だから練習されず、いざというときに動きません。リハーサルでは、必ず一度は戻す手順を実際に通します(12-04)。
戻す判断の材料をそろえる
残り時間、終わっていない工程、業務開始までの余裕、戻すのにかかる時間。この 4 つを、判定の時刻に見られる形にしておきます。判断する人が決まっていないと、誰も決められないまま時間が過ぎます。
現場で確かめる問い
- 切替の手順書に、戻れなくなる点が明記されているか。判定の時刻と人が決まっているか
- 不可逆な操作の一覧があり、戻れなくなる点の後に並んでいるか
- リハーサルで、戻す手順を実際に一度通したか
- 戻す判断の材料(残り時間、未完の工程、業務開始までの余裕、戻すのにかかる時間)を、判定の時刻に見られるか
アステリア案件で戻れなくなる点がどこに置かれ、誰が判定したかは、正本に記録がありません。記録なし
11. 人間が判断すること
- 戻すと決める条件と、判断の期限
- 当日に、続けるか戻すか
- 戻せなくなる地点を超えてよいか
本番移行承認と Go / No-Go は、AIへ最終委任しない事項です(正本の方針)。
12. 判断演習
あなたは、切り戻し計画の作成を任されました。
練習(リハーサル)で確かめたいことを3つ挙げてください。
考える観点:
- 本当に戻せるか
- 戻すのに何分かかるか
- 戻したあと、業務を再開できるか
あなたの記録あなたの考え。事実ではありません
判断ノート
このユニットで覚えてほしいこと
切り戻しは、戻す条件・手順・時間・戻せなくなる地点を先に決め、練習しておくものです。
当日の判断は、その準備があって初めてできます。