このユニットの結論
データ移行の確認は、「エラーなく終わった」ことの確認ではありません。
「移したデータが、業務の意味として旧システムと同じ状態になっているか」を、件数・合計・明細・業務の目線の順に、根拠をもって確かめることです。
1. 何の話か
このユニットは、データ移行の最後の確認である照合の話です。
照合とは、旧システムと新システムのデータを突き合わせ、合っているか、違うならなぜ違うのかを確かめる作業です。
経理の仕事にたとえると、残高を別の資料と突き合わせる残高確認に近い作業です。
2. なぜ必要か
移行の処理がエラーなく終わっても、
- 一部のデータが漏れていた、または二重に移っていた
- 変換のルールに誤りがあった
- 旧システムからデータを取り出した時点が、確認に使った資料の時点と違っていた
ということがあります。照合をしないと、こうした違いに本番稼働後に気づくことになります。
3. このユニットで分かること
- 照合の段階(件数・合計・明細・業務の目線)
- 差が見つかったときの扱い
- 照合で、AIに任せてよいことと人間が決めること
4. 照合の段階
| 段階 | 確かめること(一般的な説明) |
|---|---|
| 件数 | 移す前と移したあとで、件数が合うか |
| 合計 | 金額や数量の合計が合うか |
| 明細 | 1件ずつの内容が合うか(全件、または抽出して) |
| 業務の目線 | 利用部門が、業務で使う画面や帳票で見て、意味が合っているか |
件数が合うことは、最初の手がかりにすぎません。件数・合計・明細・業務の目線を、それぞれ別の確認として積み上げます。
5. 差が見つかったら
差が見つかったら、すぐに直すのではなく、まず理由を確かめます。
- 移行の処理や変換のルールの誤りか
- 比べた資料の時点や条件が、そろっていないのか
- それ以外の理由か(理由が分からないものは、分からないと記録する)
理由が分かるまでは、「差がある」という事実を記録し、判断する人に上げます。
CASE FACTFROZEN正本に記載されたアステリア案件の事実
アステリア案件に関係する記載
- 10年分のデータ移行
- P-009 橋本 奈緒 — データ移行リーダー
- データの正本:正式な会計残高・正式な会計仕訳は FIN-CORE
- 成果物に DAT-003 データ移行方針書、DAT-006 データ移行リハーサル結果、DAT-007 データ照合報告書がある
アステリア案件の移行の件数・照合の結果は、このユニットでは扱いません。危機演習の事実は、危機演習の中で扱います。
6. THINK — 見本の数件が合っていた
移行の結果から、担当者が見本として数件を選び、画面で見比べたところ、すべて合っていました。
問題
これで「移行したデータは合っている」と判断してよいでしょうか。
判断例を開く
判断
まだ判断できません。
確認すること:
- 件数と合計は、全体で合っているか
- 見本の選び方に、偏りはないか(古い年のデータ、例外的な取引などが含まれているか)
- 利用部門が、業務で使う帳票の目線で確かめたか
- どの確認を、誰が、どの根拠で行ったかを記録したか
数件の見本は、全体が合っていることの証明にはなりません。
7. よくある失敗
- 移行の処理がエラーなく終わったことを、照合の代わりにする
- 件数の一致だけで、合っていると判断する
- 差の理由を確かめずに、数字を合わせる修正をする
- 照合の結果と判断を、報告書に残さない
8. 成果物との接続
- DAT-007 データ照合報告書:照合の結果と差の理由を残す
- DAT-006 データ移行リハーサル結果:本番の前に移行を練習した結果
- DAT-003 データ移行方針書:何を、どう移すかの方針
危機演習 CR08 では、移行後の照合で見つかった問題を体験します(学習上の接続です。正式な対応関係ではありません)。
9. AI WORKFLOW — 差の候補を整理させる
AIは、大量の照合結果から、差のある箇所を分類するのに役立ちます。
指示例:
「次の照合結果を、件数の差・合計の差・明細の差に分け、差のある区分・期間・種類ごとに集計してください。差の理由は推測で決めず、確認が必要な点として示してください。」
10. REVIEW — AIの整理を確認する
- 旧新のどちらのデータを、どの時点で抽出したものか
- AIが差の理由を、もっともらしく決めつけていないか
- 集計の条件(期間・区分)が、照合の条件と合っているか
ADVANCED深掘り — 実務者向けに一段深く
深掘り — 照合の多層化と、差異の分類
層を重ねる
件数が合うことは、最初の層にすぎません。次に項目ごとの合計(金額、数量)を合わせます。さらに、内容を短い値に要約したもの(ハッシュ)を行ごとに比べると、合計が同じでも中身が違う行が見つかります。最後に、無作為に抜き出した明細を人の目で突き合わせます。層ごとに見つかる誤りの種類が違うので、どれか 1 つでは足りません。
差異を分類してから対応する
見つかった差異は、原因で分けます。移行の処理の誤り、元のデータの誤り、新旧で定義が違うこと、取り込みのタイミングのずれ。分類ごとに対応が違います。直すもの、直さずに説明を残すもの、定義を決め直すもの。分類せずに「全部直す」と、直してはいけないもの(元のデータの事実)まで変えてしまいます。
許容する差異を先に決める
すべての項目で「差異ゼロ」を要件にできるとは限りません。何をどこまで許容し、誰が承認するかを、照合の前に決めておきます。あとから決めると、期限に合わせて基準が緩みます。
自動化して記録を残す
照合はリハーサルと本番で何度も行います。手作業では毎回結果が変わり、比べられません。自動化し、いつ・どの層で・何件の差異が出て・どう分類したかを記録に残します。
現場で確かめる問い
- 照合は件数だけか。合計、行ごとの要約、抜き出した明細の突合まで行っているか
- 見つかった差異を、原因で分類しているか。分類ごとの対応(直す・残す・定義し直す)が決まっているか
- 許容する差異の基準と承認者を、照合の前に決めたか
- 照合の結果は自動で残り、リハーサルと本番で比べられる形になっているか
アステリア案件で照合をどの層まで行い、何を許容したかは、正本に記録がありません。記録なし
11. 人間が判断すること
- 差の理由を、正式な説明として認めるか
- 差を直すか、差があることを受け入れるか
- 照合の結果から、本番切替へ進んでよいか
12. 判断演習
あなたは、照合の結果を判断する人に報告します。
報告に入れる項目を、上の4段階(件数・合計・明細・業務の目線)に沿って書き出してください。差が見つかった場合に書くことも加えてください。
あなたの記録あなたの考え。事実ではありません
判断ノート
このユニットで覚えてほしいこと
移行の確認は、件数・合計・明細・業務の目線を積み上げて行います。
差が見つかったら、数字を合わせる前に、理由を確かめます。