このユニットの結論
開発者だからといって、本番のデータを自由に見たり変えたりしてよいわけではありません。
本番のデータへの接近は、目的・期間・範囲を決めて申請し、承認を得てから行い、行った操作を記録するのが原則です。開発やテストには、本番のデータをそのまま使わず、必要なら個人の情報などを伏せたデータを使います。
1. 何の話か
このユニットは、本番の環境とデータへの接近の管理の話です。
本番のデータには、顧客・社員・取引などの大切な情報が入っています。開発者は、システムに詳しく、技術的には本番のデータに触れられることが多いため、特に管理が必要です。開発・テスト・本番の環境を分ける理由は、09-03 のテーマです。
2. なぜ必要か
開発者が本番のデータに自由に触れられると、
- 障害の調査のつもりで、誤ってデータを変えたり消したりする
- 仕事に関係のない個人の情報まで見えてしまう
- 本番のデータを開発の環境に写し、そこから情報が漏れる
- 何かあったとき、誰が何をしたかを説明できない
ということが起きます。
3. このユニットで分かること
- 本番への接近を管理する基本の考え方
- 本番の強い権限(特権)の扱い
- 開発・テストで使うデータの扱い
- 本番への接近の管理で、AIに任せてよいことと人間が決めること
4. 基本の考え方
一般的には、次の考え方で管理します。
- 普段は持たせない:開発者の普段のアカウントには、本番のデータへの接近の権限を持たせない
- 必要なときに申請する:目的・対象・期間を書いて申請し、承認を得る
- 期限を付ける:作業が終わったら、自動的に権限が外れるようにする
- 記録する:接近して行った操作を、すべて記録する(08-04)
- 見るだけと変えるを分ける:調査のために見る権限と、データを変える権限は別に扱う。変える場合は、手順と確認する人を決める
5. 本番の強い権限(特権)
本番のシステムの設定を変えたり、データを直接変えたりできる強い権限を、特権と呼ぶことがあります。一般的には、
- 特権を持てる人を、決まった少数に限る
- 特権を使うたびに、申請・承認・記録を行う
- 障害の緊急時に使う手順(誰が、どう承認し、事後にどう確かめるか)を、事前に決めておく
- 使った記録を、使った本人以外の人が確かめる
という形で扱います。
6. 開発・テストで使うデータ
開発やテストでは、本番のデータをそのまま使わないのが原則です。
- 項目の形だけ本番に合わせた、作ったデータを使う
- 本番のデータを使う必要があるときは、個人の情報などを伏せる(別の値に置き換える)処理をしてから使う
- 伏せる処理をした後も、どこに写したかを管理し、不要になったら消す
CASE FACTFROZEN正本に記載されたアステリア案件の事実
アステリア案件に関係する記載
- SYS-09 開発・CI/CD基盤(CI/CD:自動でテストし、自動で配布する仕組み)、SYS-10 AI開発エージェント、SYS-11 監視・ログ基盤
- Vendor B の担当範囲に IAM・CI/CD・監視が含まれる
- P-012 石井 稔 — セキュリティ責任者
- 成果物に SEC-003 本番特権アクセス管理表、DEV-004 環境・リリース対応表がある
- セキュリティ例外承認は、AIへ最終委任しない事項の1つ
アステリア案件で、誰が本番のデータに接近できるか、その申請と承認の手続き、開発・テストで使うデータの扱いは、正本に記載がありません。未確定
7. THINK — 「障害の調査なので、すぐに見せてください」
本番で障害が起きました。開発の担当者から、次の依頼がありました。
「原因を調べるので、本番のデータベースを直接見られるようにしてください。急いでいるので、申請は後で出します。ついでに、おかしなデータがあったら、その場で直してしまいます。」
問題
この依頼のとおりにしてよいでしょうか。
判断例を開く
判断
このままではよくありません。急ぎであっても、分けて考えます。
確認すること:
- 緊急時の手順(誰が承認し、どう記録するか)は、事前に決まっているか。決まっていれば、その手順で進める
- 調査に必要なのは「見る」権限か。データを「変える」権限まで必要か
- その場でデータを直すことは、障害対応の指揮役(13-03)が許可した変更か
- 直す前の値と、直した操作が記録に残るか
- 作業が終わったら、権限が外れるか
緊急の手順を事前に決めておくと、急ぎのときも、手続きを飛ばさずに速く動けます。
8. よくある失敗
- 開発者の普段のアカウントに、本番のデータへの接近の権限を残したままにする
- 緊急時の手順を決めておらず、急ぎを理由に手続きを飛ばす
- 本番のデータを、伏せる処理をせずに開発の環境へ写す
- 特権を使った記録を、誰も確かめない
- 一時的に与えた権限を外し忘れる
9. 成果物との接続
- SEC-003 本番特権アクセス管理表:特権を、誰が・いつ・何のために使ったかを管理する
- SEC-002 権限設計表:普段の役割の権限に、本番への接近が入っていないかを確かめる
- DEV-004 環境・リリース対応表:環境ごとの使い方と、本番への反映の手順
- AI-002 AIエージェント権限表:AIに与える権限も、同じ考え方で本番から離す
AIに与える権限は 09-06 AIにどこまで権限を渡すか で学びます。
10. AI WORKFLOW — 特権の使用の記録を点検させる
AIは、特権の申請と使用の記録を突き合わせる下書きに役立ちます。
指示例:
「次の特権の申請の一覧と、特権を使った操作の記録を比べ、①申請のない使用、②申請の期間の外の使用、③申請の目的と関係がなさそうな操作、を挙げてください。問題があるかどうかは判断しないでください。」
11. REVIEW — AIの点検を確認する
- AIが挙げた記録を、人が元の申請と記録で確かめたか
- 緊急時の手順で、事後に申請されたものが正しく扱われているか
- 記録を AI に渡してよいか(情報の扱い)を、事前に確かめたか
12. 人間が判断すること
- 誰に、どの範囲で、本番への接近を許すか
- 特権の申請を承認するか。緊急時の手順
- 本番のデータを、開発やテストに使ってよいか。どう伏せるか
13. 判断演習
あなたは、本番への接近の申請を承認する担当です。
「障害の調査のため、本番のデータを見たい」という申請が来ました。承認する前に、申請の内容として確かめることを4つ挙げてください。
あなたの記録あなたの考え。事実ではありません
判断ノート
このユニットで覚えてほしいこと
本番のデータへの接近は、普段は持たせず、必要なときに目的・期間・範囲を決めて申請し、承認を得て、記録を残すものです。
緊急時の手順を事前に決めておけば、急ぎのときも手続きを飛ばさずに済みます。