このユニットの結論
システム投資の目的は、「新しいシステムを作ること」ではありません。
業務や経営が、どういう状態になっていればよいか(実現したい状態)を目的として書き、その状態に近づいたかを確かめる物差しまで決めておくことが大切です。
1. 何の話か
このユニットは、投資の目的の立て方の話です。
01-01 では、「古い」だけでは刷新の理由にならないことを見ました。困りごとがはっきりしたら、次は「では、投資して何を実現するのか」を言葉にします。
経理の仕事にたとえると、「会計システムを入れ替える」は手段で、「締めの作業を早く終え、経営に早く数字を届ける」が目的です。
2. なぜ必要か
目的が「システムを作ること」になっていると、一般的に次のことが起きます。
- 作ること自体が完了の条件になり、業務が良くなったかは問われない
- 機能の要望を、目的に照らして選べない
- 途中で費用や期間が厳しくなったとき、何を守り、何をあきらめるかを決められない
- 稼働後に「成功したのか」を誰も答えられない
3. このユニットで分かること
- 「手段」と「目的」の違い
- 目的から効果、効果から測り方へのつなげ方
- 目的の整理で、AIに任せてよいことと人間が決めること
4. 手段と目的を分ける
| 手段として書いたもの(教材上の例) | 目的として書き直すと(教材上の例) |
|---|---|
| 新しい基幹システムを導入する | 案件ごとの採算を、締めを待たずに見られる |
| 画面を新しくする | 入力の手間と入力の間違いを減らす |
| システムどうしを連携させる | 同じ情報を何度も手で入れ直さない |
| データを1か所に集める | 部門ごとに数字が食い違わない |
左の列は、どれも「何をするか」です。右の列は「その結果、業務がどうなっているか」です。目的は右の形で書きます。
5. 目的 → 効果 → 測り方をつなぐ
目的を書いたら、次の順につなげます。
- 目的(実現したい状態)
- 効果(何がどれだけ良くなるか)
- 指標(何で測るか)
- 確かめる時期と担当
たとえば「入力の手間を減らす」が目的なら、効果は「手で入れ直す作業が減る」、指標は「手で入れ直す件数」、確かめる時期は「稼働して一定の期間がたったあと」、というように書きます(教材上の例)。
指標を決めるときは、導入前の値を先に測っておくことが大切です。前の値がないと、良くなったかどうかを比べられません。
目的はいくつも出てくるのが普通です。すべてを同じ重さで扱うのではなく、どれを最も大切にするかも、あわせて決めておきます。
CASE FACTFROZEN正本に記載されたアステリア案件の事実
アステリア案件に関係する記載
- 大規模基幹システム刷新、約120人規模のプロジェクト
- P-001 佐伯 隆志 — CFO/プロジェクトスポンサー
- M-6 構想開始、M0 正式キックオフ、M18 本番稼働、M21 初期安定化完了
- 投資承認は、AIへ最終委任しない事項の1つ
アステリア案件の投資の目的の文、期待する効果、効果を測る指標とその目標値は、正本に記載がありません。未確定上の表の例は教材上の例です。
6. THINK — 目的が5つ並んだ企画
(教材上の例)投資の企画の下書きに、目的が次のように並んでいます。
「業務の効率化、データの一元化、経営の見える化、保守費用の削減、働き方の改善」
問題
この目的の書き方で、承認を求めてよいでしょうか。
判断例を開く
判断
このままでは、承認する人も、プロジェクトの人も、判断に使えません。
確認すること:
- それぞれが「実現したい状態」になっているか(「一元化」は手段ではないか)
- 誰の、どの業務が、どう変わるのかが書かれているか
- それぞれに、良くなったことを確かめる指標があるか
- 5つのうち、どれを最も大切にするか
言葉を並べるだけでなく、業務の場面と測り方まで書き直します。
7. よくある失敗
- 目的に「システム導入」「刷新」など手段を書く
- 「効率化」「見える化」などの言葉だけで、誰の何が変わるかを書かない
- 導入前の値を測っておらず、稼働後に比べられない
- 目的の重さに差を付けず、途中で何を守るか決められない
- 目的を承認のときだけ使い、その後の判断で参照しない
8. 成果物との接続
- BUS-002 システム投資企画書:目的・効果・費用をまとめ、承認を得る
- BUS-004 効果測定指標一覧:目的ごとの指標、導入前の値、確かめる時期と担当を一覧にする
- PRG-001 プロジェクト憲章:承認された目的を、プロジェクト全員の出発点として引き継ぐ
9. AI WORKFLOW — 手段と目的を見分けさせる
AIは、目的の書き方の弱いところを探す下書きに役立ちます。
指示例:
「次の企画書の『目的』の欄の各文を、①手段を書いているもの、②実現したい状態を書いているもの、に分けてください。①については、業務の担当に確かめるべき質問を挙げてください。目的の文を書き換えたり、効果の数値を補ったりしないでください。」
10. REVIEW — AIの分類を確認する
- 分類が、企画書の元の文の意味と合っているか
- AIが、効果の大きさや数値を推測で書き足していないか
- 業務の担当に聞く質問が、実際の業務の場面に合っているか
ADVANCED深掘り — 実務者向けに一段深く
深掘り — 出力と成果、先に動く指標
出力と成果を分ける
「新しい画面を 20 種類作った」は出力(アウトプット)、「入力の手間が減った」は成果(アウトカム)です。世界で共有されている考え方では、この 2 つをはっきり分けます。出力は作る側が約束できますが、成果は業務が変わって初めて出ます。企画書の目的は成果で書き、進み具合の報告は出力で書く、と使い分けると、「作ったのに良くならない」が早く見えます。
先に動く指標と、あとから動く指標
成果の指標(締めにかかる日数、手で入れ直す件数)は、稼働して時間がたたないと動きません。これを遅行指標と呼びます。その前に動く指標(新しい画面で登録された割合、手順書どおりに処理された割合)を先行指標として持つと、稼働直後に「成果が出る方向に向かっているか」を確かめられます。先行指標が動いていないのに遅行指標を待つのは、時間の無駄です。
指標が目的にすり替わる
指標を決めると、人は指標の数字を良くする行動をとります。「手で入れ直す件数」を減らすために、入れ直しを記録しなくなる、というように。世界で共有されている考え方では「グッドハートの法則」と呼ばれます。防ぐには、1 つの成果に対して、互いに打ち消し合う指標を 2 つ置きます(件数と、処理にかかった時間、など)。
導入前の値の測り方
導入前の値は、1 回測って終わりではなく、季節や繁忙の違いを含む期間で測ります。1 か月だけの値を基準にすると、比べたときの差が、システムの効果なのか時期の違いなのか分からなくなります。
現場で確かめる問い
- 企画書の目的は、出力で書かれているか、成果で書かれているか
- 成果の指標ごとに、先に動く指標を置いているか。それは稼働後いつから測れるか
- 指標の数字を良くするために、望ましくない行動が起きる余地はないか。打ち消す指標はあるか
- 導入前の値は、どの期間で測ったか。時期の違いを含んでいるか
アステリア案件の投資の目的、指標、導入前の値は、正本に記録がありません。記録なし
11. 人間が判断すること
- 投資で実現したい状態を、どう定めるか
- 複数の目的のうち、どれを最も大切にするか
- どの指標で、誰が、いつ確かめるか
12. 判断演習
あなたは、企画書の下書きを任されました。
「経営の見える化」という目的を、業務の場面・効果・指標の3つを含む文に書き直してください。業務の場面は、あなたの身近な仕事から選んでかまいません。
あなたの記録あなたの考え。事実ではありません
判断ノート
このユニットで覚えてほしいこと
投資の目的は、作るものではなく、実現したい状態で書きます。
目的から効果、効果から指標へとつなぎ、導入前の値を測っておくことで、稼働後に「実現できたか」を確かめられます。