これは何か
データ一覧・管理責任表は、プロジェクトで扱うデータの種類を一覧にし、データごとに「正しい値を持つシステム(データの正本)」と「中身に責任を持つ人」を決めて記録する成果物です。
システムの画面に同じ値が表示されていても、その値をどこで作り、誰が正しいと言えるのかは別の問題です(05-02)。この表は、その答えをデータの種類ごとに1行で示します。
なぜ作るか
- 値が食い違ったとき、どのシステムの値を信じ、どこで直すかを迷わない
- データの中身について、業務の側で判断する人を決めておく(汚れたデータを直すか、移すかなどの判断:11-04・11-02)
- 秘密の度合いや保管の期間など、データごとの扱いの決まりを1か所で確かめられる
誰が使うか・いつ作るか
- 作る人:全体の設計の担当とデータの担当。業務の各担当が、責任者の欄を確かめる
- 使う人:連携の設計の担当、権限の設計の担当、データ移行の担当、運用の担当
- 一般的には、全体の設計(Stage 05)の段階で作り、データ移行の範囲を決める段階(Stage 11)で詳しくし、稼働後も運用の決まりとして使い続けます
- 業務の責任者とシステムの担当のどちらを「管理責任者」と呼ぶかは、プロジェクトによって異なります
CASE FACTFROZEN正本に記載されたアステリア案件の事実
アステリア案件のデータの正本(抜粋)
- 顧客:営業管理システム
- 契約:営業管理システム
- 社員・組織:人事マスター
- 工数:勤怠・工数管理SaaS
- 案件・案件予算・案件原価:新基幹
- 請求:新基幹
- 正式な会計残高・正式な会計仕訳:FIN-CORE
- 経営分析:BI
関係する記載
- 10年分のデータ移行
- P-009 橋本 奈緒 — データ移行リーダー
データの正本の全件は システム・連携 で確認できます。
正本に記載があるのは、データの種類と正本のシステムの対応までです。データごとの業務の責任者、秘密の度合い、保管の期間、直す手順は、正本に記載がありません。未確定 人物の役職名から、データの責任者を推測しません。
主な項目(列)
一般的には、1行に1つのデータの種類を置き、次の列を持ちます。
- データの名前と種類:基本の情報(取引先・社員など)か、日々の取引の記録か、集計したものか
- データの正本:正しい値を持つシステム
- 業務の責任者:中身が正しいかを判断する役割(部門・役職)
- システムの担当:そのシステムでデータを保つ担当(会社・チーム)
- 作る・直す場所:どのシステムで作り、どこで直すか
- 使うシステム:正本から受け取って使うシステムと、その連携(ARC-004)
- 秘密の度合い:誰が見てよいか(SEC-002 の権限の設計につなぐ)
- 保管の期間:いつまで残すか
- 移行の扱い:新しいシステムへ移すか(DAT-003)
- 状態:案・確認中・確定
教材用サンプル成果物の読み方を学ぶための例
教材用サンプル — 一覧の数行
この成果物は学習用サンプルです。FROZEN正本に記載されたCASE FACTと、成果物の読み方を学ぶための教材用サンプル値を区別して表示しています。
内容はすべて教材上の架空の例で、アステリア案件の記録ではありません。システムの名前も架空の会社の例です。
| No. | データ | 種類 | 正本 | 業務の責任者 | 直す場所 | 使うシステム | 秘密の度合い | 状態 |
|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
| DL-EX-01 | 取引先 | 基本の情報 | 販売の仕組み | 営業部門の管理職 | 販売の仕組みだけ | 受注・分析 | 社内 | 確定 |
| DL-EX-02 | 社員 | 基本の情報 | 人事の仕組み | 人事部門 | 人事の仕組みだけ | 受注・勤務 | 限定(個人の情報) | 確定 |
| DL-EX-03 | 受注 | 取引の記録 | 受注の仕組み | 営業部門 | 受注の仕組み | 出荷・分析 | 社内 | 確認中 |
| DL-EX-04 | 商品の分類 | 基本の情報 | 未決 | 未決 | 受注と在庫の両方で直している | 受注・在庫・分析 | 社内 | 案 |
| DL-EX-05 | 部門別の実績 | 集計 | 分析の仕組み | 経営企画部門 | 直さない(元のデータを直して作り直す) | ― | 限定 | 確定 |
DL-EX-04 のように、正本が決まらず2つのシステムで直している行は、確定にしないで、決める人と期限を課題として管理します。
読み方
- 正本が「未決」の行、または2つのシステムが正本のように扱われている行はないか
- 業務の責任者が、人の名前だけでなく役割(部門・役職)で書かれているか
- 「直す場所」が正本と一致しているか。正本以外で直すなら、その理由と戻し方があるか
- 集計したデータに「直さない(元を直して作り直す)」の考え方が書かれているか
書き方
- 要件・業務の流れ・システムの全体図から、データの種類を洗い出す
- データごとに、どのシステムで作られ、どこで使われるかを書く
- 正本を決める。決まらないものは「未決」とし、課題として管理する
- 業務の側と相談して、業務の責任者を決める
- 秘密の度合い・保管の期間・移行の扱いを加える
- システムや連携の変更に合わせて更新する
何を書いてはいけないか
- 決まっていない正本や責任者を、推測で埋めること
- 責任者の欄に「全員」「情報システム部門」とだけ書くこと(中身を判断する人が分からない)
- 項目の意味や形式の細かい定義(それはデータ定義書の役割)
ほかの成果物との違い
- DAT-002 データ定義書:1つのデータの中の項目ごとに、意味・形式・取りうる値を定める。この一覧はデータの種類ごとの持ち主と責任を定める
- ARC-003 システム責任分担表:システムごとの担当。この一覧はデータごとの担当
- DAT-003 データ移行方針書:何をどう移すかの考え方。この一覧の「移行の扱い」の列が、その出発点になる
どこを見るか
- 正本が1つに決まっているか
- 業務の責任者が役割で書かれているか
- 直す場所と正本が一致しているか
- 秘密の度合い・保管の期間があるか
- 未決の行が課題として管理されているか
赤信号
- 正本の欄が空、または同じデータに正本が2つ書かれている
- 業務の責任者の欄が、システムの担当の会社名だけになっている
- 集計したデータを、分析の仕組みの中で直接直している
よくある失敗
- 業務の側に確かめないまま、システムの担当を責任者として書く
- 正本を決めたが、「直す場所」を決めず、各システムで直し続ける
関係するUnit・成果物・危機演習
- Unit:05-02 どのシステムが何を担当するのか、11-02 何を移し、何を移さないのか、11-04 汚れたデータをどうするか
- 成果物:DAT-002 データ定義書、ARC-003 システム責任分担表、ARC-004 システム連携一覧、DAT-003 データ移行方針書、DAT-005 データ品質・クレンジング一覧、SEC-002 権限設計表
- 危機演習:この成果物を直接の題材にする危機演習はありません
AI WORKFLOW
AIは、一覧とほかの設計資料を突き合わせる下書きに役立ちます。
「次のデータ一覧と、システムごとの機能一覧を比べ、①正本以外のシステムでデータを直す機能、②一覧にないのに機能一覧に出てくるデータ、③業務の責任者・秘密の度合いが空欄の行、を挙げてください。正本や責任者を提案・決定しないでください。」
REVIEW
- AIが挙げた食い違いを、人が元の資料で確かめたか
- AIが空欄を一般論で埋めていないか
人間が判断すること
- どのデータの正本を、どのシステムにするか
- データごとの業務の責任者
- 正本以外で直すことを例外として認めるか
- 秘密の度合いと保管の期間
いつ使うか
この教材では STAGE 05|全体設計を作る の文脈で扱います。 アステリア案件での正式な作成・使用時期(月)は正本に記載がないため、未確定としています。
最後の問い
この一覧の1行を見た人は、「このデータの正しい値はどのシステムにあり、中身に責任を持つのは誰で、直すときは誰に相談すればよいか」を答えられますか?