このユニットの結論
「念のため、全部移す」は、安全な選び方ではありません。
新しいシステムで業務を続けるために何が必要かを、データの種類ごとに業務の担当と確かめ、移すもの・移さないもの・参照できる形で残すものに分けて、その理由を記録することが、移行の範囲の決め方です。
1. 何の話か
このユニットは、データ移行の範囲の話です。
古いシステムには、長い年月の間に、たくさんのデータがたまっています。その中には、毎日の業務に欠かせないデータもあれば、何年も使われていないデータもあります。どれを新しいシステムへ移すかを決める必要があります。
2. なぜ必要か
範囲を決めずに進めると、
- 全部を移そうとして、変換・誤りの修正・確認の手間が大きくふくらむ
- 移行にかかる時間が長くなり、本番の切替の時間に収まらない
- 逆に、必要なデータが抜けて、稼働してから業務が止まる
- 移さなかったデータを、あとで見たいときに見られない
ということが起きます。
3. このユニットで分かること
- 移すかどうかを決める観点
- 「移さない」ときの残し方
- 範囲を決める人と、その記録
- 範囲の判断で、AIに任せてよいことと人間が決めること
4. 移すかどうかを決める観点
一般的には、データの種類ごとに、次の観点で考えます。
- 業務で使うか:新しいシステムで、稼働の日から使う必要があるか
- 続いているか:まだ終わっていない取引・案件など、稼働後も処理が続くものか
- 過去を見る必要があるか:比較や問い合わせのために、過去の分を見る必要があるか。何年前までか
- 保存の義務があるか:法令や社内の規程で、保存が求められている記録か(期間や方法は、会社の担当部門に確かめる)
- 品質:誤りや欠けが多く、そのまま移すと問題になるデータか
- 手間:移すための変換・確認に、どれだけの手間がかかるか
5. 3つに分ける
| 分け方 | 意味 | 例(教材上の例) |
|---|---|---|
| 移す | 新しいシステムに入れて、業務で使う | 取引のある顧客、進行中の案件、在籍している社員 |
| 参照できる形で残す | 新しいシステムには入れないが、必要なときに見られるように保管する | 何年も前に終わった案件の詳しい履歴 |
| 移さない | 使わないので、移さない(保管の要否は別に確かめる) | 使われなくなった設定、試しに作られたデータ |
「移さない」と決めたデータも、保存の義務があるかどうかを確かめたうえで、捨てるのか、保管するのかを決めます。
CASE FACTFROZEN正本に記載されたアステリア案件の事実
アステリア案件に関係する記載
- 10年分のデータ移行
- P-009 橋本 奈緒 — データ移行リーダー
- 業務の担当として、P-005 藤本 遥(経理業務リーダー)、P-006 川村 美咲(プロジェクト管理業務リーダー)、P-007 松本 健太(営業・契約業務リーダー)がいる
「10年分」がどのデータの何年分を指すのか、移すデータ・移さないデータの区分、範囲を決めた人は、正本に記載がありません。未確定 上の業務の担当が範囲の判断に関わるという記載もありません。未確定
6. THINK — 「念のため全部移しましょう」
移行の範囲を決める会議で、業務の担当者が次のように言いました。
「どのデータがあとで必要になるか分からないので、念のため全部移してください。」
問題
この要望のとおり、全部を移すと決めてよいでしょうか。
判断例を開く
判断
そのまま決める前に、確かめることがあります。
確認すること:
- 「あとで必要になるかもしれない」のは、どんな場面か。その場面で、新しいシステムの中にある必要があるか、参照できれば足りるか
- 全部を移すと、変換・誤りの修正・確認の手間と、移行の時間はどれだけ増えるか
- 古いデータの中に、形が違う・誤りが多いなど、そのままでは移せないものはないか
- 移さないデータを、必要なときに見られる方法はあるか
担当者の不安は、「移さないと見られなくなる」ことから来ていることが多いものです。参照できる形で残す方法を示すと、移す範囲を絞れることがあります。
7. よくある失敗
- 判断に迷い、「全部移す」を選んで、移行の手間と時間がふくらむ
- 技術の担当だけで範囲を決め、業務で必要なデータが抜ける
- 「移さない」と決めたデータの保管の方法を決めていない
- 保存の義務を確かめないまま、データを捨てる
- 範囲を決めた理由と、決めた人を記録しない
8. 成果物との接続
- DAT-003 データ移行方針書:移す・移さないの判断と、その理由を書く
- DAT-001 データ一覧・管理責任表:どんなデータがあり、誰が責任を持つかの一覧
範囲の考え方は、プロジェクト全体の範囲の決め方(01-05 どこまでを今回の対象にするか)とも共通しています。
9. AI WORKFLOW — 判断の材料を整理させる
AIは、データの種類ごとの判断の材料を整理する下書きに役立ちます。
指示例:
「次のデータの一覧について、データの種類ごとに、①最後に更新された時期、②件数、③業務の担当に確かめるべき質問、を表にしてください。移すかどうかは判断しないでください。」
10. REVIEW — AIの整理を確認する
- 表の時期と件数が、元のデータと合っているか
- AIが「不要」「移さなくてよい」と判断していないか
- 保存の義務について、AIの一般論ではなく、会社の担当部門に確かめたか
11. 人間が判断すること
- データの種類ごとに、移す・参照できる形で残す・移さない
- 移さないデータを捨てるか、保管するか
- 範囲の判断の記録と承認
12. 判断演習
あなたは、移行の範囲を決める担当です。
「過去の案件の記録を何年分移すか」を業務の担当と決めるために、聞いておきたい質問を3つ挙げてください。
あなたの記録あなたの考え。事実ではありません
判断ノート
このユニットで覚えてほしいこと
移行の範囲は、移す・参照できる形で残す・移さないの3つに分けて決めます。
判断の理由と決めた人を記録し、「念のため全部」で手間と時間をふくらませないようにします。