このユニットの結論
振り返りで人を責めると、次から本当のことが報告されなくなります。
「誰が間違えたか」ではなく「なぜその判断が、そのときは合理的に見えたか」を問い、仕組みの弱さを見つけて直す。これを続けるには、進め方の型(時系列の再構成、問いの立て方、言葉の決まり、対策の追跡)が要ります。善意だけでは続きません。
1. 何の話か
このユニットは、障害の振り返りを、人を責めずに、仕組みの改善につなげる進め方の話です。
13-05 障害を再発させない で、再発防止策の種類と、効いたかを確かめることを学びました。このユニットは、その前段である「振り返りの場の運営」を掘り下げます。世界で共有されている考え方では「ブレームレス・ポストモーテム(責めない事後検証)」と呼ばれます。
2. なぜ必要か
振り返りで人を責めると、
- 次の障害で、関わった人が事実を正確に報告しなくなる(自分に不利な事実を省く)
- 「担当者の注意不足」で原因が閉じられ、同じ条件なら誰でも同じ間違いをする仕組みが残る
- 対策が「注意の徹底」「再教育」になり、仕組みは変わらない
- 振り返りの場に出たがる人がいなくなり、振り返り自体が形骸化する
ということが起きます。責めないのは優しさのためではなく、事実を集めて仕組みを直すためです。
3. このユニットで分かること
- 振り返りの進め方の型
- 問いの立て方と言葉の決まり
- 対策を追跡する仕組み
4. 進め方の型
| 段階 | すること | 注意 |
|---|---|---|
| 1. 時系列の再構成 | 記録(監視、連絡、作業の記録)から、何が、いつ起き、誰が何を知り、何をしたかを並べる | 記憶ではなく記録から。記録がない部分は「記録なし」と書く |
| 2. 判断の点の特定 | 時系列の中で、人が判断した点(気づいた、報告した、作業した、見送った)を挙げる | 判断の良し悪しは、まだ評価しない |
| 3. 「なぜ合理的に見えたか」の問い | 判断の点ごとに、そのとき手元にあった情報と時間で、なぜその判断になったかを問う | 「なぜ気づかなかったか」ではなく「何があれば気づけたか」 |
| 4. 仕組みの弱さの特定 | 情報が届かなかった、手順がなかった、権限がなかった、監視がなかった、のような仕組みの弱さを挙げる | 人の名前ではなく、役割と仕組みで書く |
| 5. 対策と追跡 | 弱さごとに対策を決め、担当と期限を付け、課題の一覧に登録する | 「注意する」は対策ではない |
5. 言葉の決まりと、対策の追跡
言葉の決まりを場の最初に確かめます。人の名前ではなく役割で呼ぶ(「山田さんが」ではなく「当番の担当が」)。「〜すべきだった」ではなく「〜があれば〜できた」と言う。「ミス」「怠慢」のような評価の言葉を使わない。進行役は、評価の言葉が出たら言い換えを促します。
進行役は、障害の対応に直接関わらなかった人が務めるのが一般的です。関わった人は当事者として事実を話し、進行役は問いの立て方と言葉の決まりを守らせます。
対策の追跡がないと、振り返りは「反省会」で終わります。対策は PRG-006 課題・リスク管理表 に、担当と期限を付けて登録し、定例で進み具合を見ます。振り返りの記録は OPS-006 障害振り返り報告書 に残し、関係者が読める場所に置きます。公開の範囲を広げるほど、同じ弱さを持つほかの場所に気づく人が増えます。
処分との関係を、会社として決めておきます。振り返りの場で出た事実を処分の根拠にしないと決めておかないと、事実は出てきません。故意や重大な規則違反は別の手続きで扱う、と線を引いておきます。
CASE FACTFROZEN正本に記載されたアステリア案件の事実
アステリア案件の振り返りに関する記載
- 約120人規模のプロジェクト、マルチベンダー(Vendor 4社)
- 成果物に OPS-005 障害報告書、OPS-006 障害振り返り報告書、PRG-006 課題・リスク管理表 がある
- P-011 山下 恵 — 本番移行・運用リーダー、P-010 宮田 直人 — テスト・品質管理リーダー
- 重大障害判断は、AIへ最終委任しない事項
アステリア案件で振り返りがどう行われ、誰が進行し、対策がどう追跡されたかは、正本に記録がありません。記録なし
6. THINK — 「手順を飛ばした担当者を処分すべきだ」
本番の作業で、担当者が手順書の確認の項目を 1 つ飛ばし、障害につながりました。振り返りの場で、ある管理職が次のように言いました。
「手順書に書いてあることを飛ばしたのだから、明らかに担当者の責任だ。処分して、全員に手順書の遵守を徹底させるべきだ。」
問題
この進め方で、同じ障害は防げるでしょうか。
判断例を開く
判断
「飛ばした」は事実です。「なぜ飛ばしたか」を問わずに処分すると、次は「飛ばした」という事実そのものが報告されなくなります。
確認すること:
- その確認の項目は、手順書のどこに、どう書かれていたか。見落としやすい場所や書き方ではなかったか
- 作業は何時に、どれだけの時間の中で行われたか。急がされていなかったか
- 同じ手順を行った他の人は、その項目を毎回確かめていたか。飛ばしていたのが 1 人だけなら個人の問題に近く、多くの人が飛ばしていたなら手順の問題
- 確認の項目を飛ばしたとき、仕組みが止める(次に進めない)ようになっていたか。人の注意だけに頼っていなかったか
- この担当者を処分したら、次に同じ場面に立った人は、正直に報告するか
対策は「遵守の徹底」ではなく、「飛ばすと進めない仕組み」「見落としにくい手順書」「急がせない作業の時間」です。処分は、仕組みを直すことの代わりにはなりません。
7. よくある失敗
- 記憶で時系列を作り、関わった人の間で食い違ったまま原因を議論する
- 「なぜ気づかなかったか」と問い、答えが「注意不足」で閉じる
- 進行役を対応の当事者が務め、自分の判断を説明する場になる
- 対策を課題の一覧に登録せず、振り返りの報告書の中だけで終わる
- 処分との線を引いておらず、事実が出てこない
8. 成果物との接続
- OPS-006 障害振り返り報告書:時系列、判断の点、仕組みの弱さ、対策。役割と仕組みの言葉で書く
- PRG-006 課題・リスク管理表:対策を担当と期限付きで登録し、定例で追跡する
9. AI WORKFLOW — 記録から時系列の下書きを作らせる
AIは、監視の記録、連絡の記録、作業の記録から、時系列の下書きを作るのに役立ちます。評価の言葉を使わない下書きを作らせます。
指示例:
「次の監視の記録、連絡の記録、作業の記録から、時刻順に『何が起きたか』『誰(役割名で)が何を知ったか』『誰が何をしたか』を表にしてください。人の名前は役割名に置き換えてください。判断の良し悪しの評価、原因の推定、『〜すべきだった』という表現は使わないでください。記録にない時間帯は『記録なし』と書いてください。」
10. REVIEW — AIの下書きを確認する
- AIの時系列が記録と合っているか。記録にないことを補っていないか
- 役割名への置き換えが正しいか(同じ人が 2 つの役割を兼ねていた場合など)
- 評価の言葉が紛れ込んでいないか。あれば人が言い換える
11. 人間が判断すること
- 「なぜ合理的に見えたか」の問いへの答え(当事者が話し、場で理解する)
- どの仕組みの弱さに、どの対策を打つか
- 処分との線引き(会社として、事前に)
12. 判断演習
「夜間の処理が失敗し、当番の担当が通知に気づいたのは朝だった」という障害の振り返りを考えてください。
「なぜ気づかなかったか」ではなく「何があれば気づけたか」の形で問いを 3 つ書いてください。そのうえで、それぞれの問いから出てきそうな仕組みの弱さと対策を 1 つずつ書いてください。
あなたの記録あなたの考え。事実ではありません
判断ノート
このユニットで覚えてほしいこと
責めないのは、事実を集めるため。記録から時系列を作り、「なぜ合理的に見えたか」「何があれば気づけたか」を問い、役割と仕組みの言葉で書き、対策を追跡する。処分は仕組みの代わりにならない。