このユニットの結論
提案の見積もりが一番安い会社が、プロジェクト全体で一番安く済むとは限りません。
見積もりの前提(何が含まれ、何が含まれていないか)をそろえ、稼働後にかかる費用と、失敗したときの損失まで含めて比べ、金額以外の観点と合わせて選ぶことが大切です。
1. 何の話か
このユニットは、ベンダー(システムを作る会社)を選ぶときの、金額の見方の話です。
提案依頼書(RFP)を出すと、各社から提案と見積もりが届きます(02-02・02-03)。見積もりの金額は分かりやすい数字なので、つい金額だけで比べたくなります。
2. なぜ必要か
金額だけで選ぶと、
- 見積もりに含まれていない作業(データ移行・稼働後の支援など)が、あとから追加の費用になる
- 無理な見積もりで受けた会社が、途中で体制を縮めたり、品質を下げたりする
- 稼働後の保守・利用料が高く、数年で見ると高くつく
- 失敗したときの損失(稼働の遅れ、業務への影響)のほうが、差額よりずっと大きくなる
ということが起きます。
3. このユニットで分かること
- 見積もりを比べる前にそろえること
- 「総額」の考え方
- 金額以外に見る観点
- ベンダー選定で、AIに任せてよいことと人間が決めること
4. 比べる前にそろえること
見積もりは、前提がそろっていなければ比べられません。
| そろえること | 確かめる問いの例 |
|---|---|
| 範囲 | どの作業が含まれているか。データ移行・テスト・教育・稼働後の支援は入っているか |
| 前提条件 | 発注する側が用意するもの(環境・データ・人)は、各社で同じ前提か |
| 期間 | 稼働後の支援・保守は、何年分が入っているか |
| 変更の扱い | 要件が変わったときの費用の決め方は、どう書かれているか |
前提が違う場合は、同じ前提で見積もり直してもらうか、違いを金額に直して比べます。
5. 「総額」で考える
システムにかかるお金は、作るときの費用だけではありません(01-04)。一般的には、次を合わせて比べます。
- 作る費用(設計・開発・テスト)
- 移す費用(データ移行・切替)
- 使い続ける費用(保守・利用料・運用の人件費)の数年分
- 社内の人がかける時間
- 失敗したときの損失の大きさ(金額にしにくいが、無視しない)
6. 金額以外に見る観点
- 要件と業務をどれだけ理解しているか
- 実現の方法に無理がないか
- 体制(責任者の経験、人数、交代への備え)
- 品質の管理の仕方
- 移行・稼働後の支援の考え方
これらの観点と重みは、提案を受け取る前に決めておきます(BUS-006 ベンダー評価表)。
CASE FACTFROZEN正本に記載されたアステリア案件の事実
アステリア案件に関係する記載
- マルチベンダー。Vendor 4社(Vendor A / ネクサスシステムズ、Vendor B / クラウドブリッジ、Vendor C / ファイナンスシステムサービス、Vendor D / タイムリンク)
- 成果物に BUS-005 提案依頼書(RFP)、BUS-006 ベンダー評価表がある
アステリア案件の見積もりの金額、候補になった会社の数、選定の理由は、正本に記載がありません。未確定 この教材では、4社の見積もりや評価を示しません。
7. THINK — 一番安い提案
(教材上の例)2社の提案が届きました。X社の見積もりは、Y社より3割安くなっています。選定の会議で、次の意見が出ました。
「機能はどちらも要件を満たすと書いてあります。安いX社にしましょう。」
問題
この意見のとおり、X社に決めてよいでしょうか。
判断例を開く
判断
まだ決められません。
確認すること:
- 両社の見積もりに、同じ範囲の作業が含まれているか(特に、データ移行・テスト・稼働後の支援)
- 前提条件(発注する側が用意するもの)は同じか
- 稼働後の保守・利用料を、数年分で比べたか
- X社の体制・進め方に、安さの理由として無理がないか
- 金額以外の観点で、どちらが上か
3割の差が、範囲の違いや、あとで追加される費用で消えることはよくあります。
8. よくある失敗
- 見積もりの前提をそろえずに、金額だけを並べて比べる
- 作る費用だけを比べ、使い続ける費用を比べない
- 安い理由を確かめないまま選ぶ
- 金額以外の観点の重みを、提案を見てから決める
9. 成果物との接続
- BUS-006 ベンダー評価表:金額と金額以外の観点を、事前に決めた重みで比べる
- BUS-005 提案依頼書(RFP):見積もりの内訳と前提を、そろえて出してもらう
- BUS-002 システム投資企画書:投資の総額と効果の見込み
契約で何を決めるかは、02-05 契約で何を決めるのか のテーマです。
10. AI WORKFLOW — 見積もりの前提の違いを探させる
AIは、複数の見積もりの前提を並べて比べる下書きに役立ちます。
指示例:
「次の2社の見積もりについて、①含まれている作業、②含まれていない作業、③前提条件、④稼働後の費用の期間、を表にして並べてください。どちらの会社がよいかは判断しないでください。」
11. REVIEW — AIの比較を確認する
- 表の内容が、元の見積もりと合っているか
- AIが、書かれていない作業を「含まれている」と推測していないか
- 見積もりを AI に渡してよいか(秘密の扱い)を、事前に確かめたか
ADVANCED深掘り — 実務者向けに一段深く
深掘り — 総合評価の重みと、評価者のばらつき
重みは評価の前に決める
価格だけで選ばない方法として、技術の点数と価格の点数を重みを付けて合計する「総合評価」があります。重み(たとえば技術 70 に対して価格 30)をどう置くかで結果が変わるため、提案を見る前に重みを決め、提案する側にも公開しておきます。あとから重みを変えると、特定の会社を選ぶための操作に見えます。
評価者の点差を見る
同じ提案でも、評価者によって点数は違います。ばらつきを減らすには、点数ごとの意味を言葉で決めておきます(たとえば「5:同規模の実績があり、体制が名前つきで示されている」「3:実績はあるが体制が未定」)。採点のあと、評価者の間で点差が大きい項目を取り出し、理由を話し合ってから確定します。平均するだけでは、ばらつきの原因が残ります。
安い提案の前提を読む
安い提案は、範囲の解釈が狭いことがあります。「含まれていない作業」「前提にしている体制」「成果物の数」をそろえてから比べます。また、開発の費用だけでなく、稼働後の運用・保守・更改までの費用(総保有コスト)で見ると、順位が入れ替わることがあります(01-04)。
記録に残すもの
重み、点数の意味、評価者ごとの点数、話し合いの結論。あとで「なぜこの会社か」を説明できる形で残します。
現場で確かめる問い
- 重みと点数の意味は、提案を見る前に決まり、提案する側に示されていたか
- 評価者の間で点差が大きい項目を取り出し、理由を話し合った記録があるか
- 安い提案の「含まれていない作業」と「前提の体制」を、ほかの提案とそろえて比べたか
- 開発費だけでなく、稼働後の運用・保守・更改までの費用で順位を見たか
アステリア案件の評価の方法、重み、評価者は、正本に記録がありません。記録なし
12. 人間が判断すること
- 比べる観点と重み
- 前提の違いを、どう金額に直すか
- どの会社を選ぶか。安さの理由を受け入れるか
13. 判断演習
あなたは、ベンダー選定の担当です。
見積もりが一番安い会社に、その理由を確かめるための質問を3つ考えてください。
あなたの記録あなたの考え。事実ではありません
判断ノート
このユニットで覚えてほしいこと
見積もりは、前提をそろえ、総額で比べ、金額以外の観点と合わせて選びます。
一番安い見積もりが、一番安いプロジェクトになるとは限りません。