このユニットの結論
「最近よく止まる」「前より悪くなった」という感覚だけでは、改善すべきかどうかを決められません。
運用で守り続ける品質の目標を数値で決め、測り方を定義し、決めた頻度で報告し、目標を下回ったときにすることまで決めておくことで、運用の品質を関係者が同じものさしで話せるようにします。
1. 何の話か
稼働から半年ほどたった運用の定例会で、利用部門の責任者がこう言いました。
「最近、システムがよく止まる気がします。」
運用の担当者は「そんなことはないはずです」と答えましたが、どちらにも根拠の数字がなく、話は平行線でした。
このユニットは、運用の品質を数値で決めて、測って、報告する話です。一般的には、この目標を「サービス品質目標」、利用部門や委託先と合意したものを「サービスレベル合意」(英語の略で SLA)と呼びます。
2. なぜ必要か
品質を数値で管理しないと、
- 良くなっているのか悪くなっているのか、誰にも分からない
- 利用部門と運用の担当が、感覚の違いで対立する
ということが起きます。
3. このユニットで分かること
- サービス品質目標で決めること(目標・測り方・報告・下回ったとき)
- 非機能要件との違い
- 目標を下回ったときの考え方
4. 何を目標にするか
一般的には、次のような種類の目標を決めます。
- 使えること:業務の時間に、システムを使えた時間の割合
- 処理が間に合うこと:決まった処理が、業務が始まるまでに終わること
- 問い合わせへの対応:受け付けてから最初に回答するまでの時間
- 障害からの戻り:重大な障害が起きてから、業務が再開できるまでの時間
大切なのは、利用者が「困るかどうか」とつながる目標を選ぶことです。システムの部品の値(使っている資源の割合など)は、監視(14-02)では見ますが、それだけを品質の目標にすると、利用者の実感とずれます。
5. 測り方を定義する
同じ「使えた時間の割合」でも、測り方によって数字が大きく変わります。目標と一緒に、次を決めて書いておきます。
- 何を「使えなかった」と数えるか:全体が止まったときだけか、一部の機能が使えないときも数えるか
- 数える時間の範囲:業務の時間だけか、夜間や休日も含めるか
- 除くもの:事前に知らせた計画的な停止を除くか
- どこで測るか:監視の記録から自動で出すか、人が集計するか
教材用サンプル目標の書き方を学ぶための例
| 目標の種類 | 目標(教材上の例) | 測り方(教材上の例) | 報告(教材上の例) |
|---|---|---|---|
| 使えること | 業務の時間のうち 99.5% 以上 | 平日の業務の時間を対象。一部の機能の停止も数える。事前に知らせた停止は除く | 毎月 |
| 処理が間に合うこと | 日次の処理が始業までに終わらなかった日が、1か月に1日以下 | 処理の終わった時刻を監視の記録から集計 | 毎月 |
| 問い合わせへの対応 | 受付から4営業時間以内に最初の回答 | 問い合わせの記録の受付時刻と回答時刻 | 毎月 |
目標の値・測り方・報告の頻度は、すべて教材上の例です。アステリア案件の目標ではありません。
6. 非機能要件との違い
非機能要件(REQ-003 非機能要件一覧)は、システムを作るときに満たすべき水準で、テストで確かめます。サービス品質目標は、稼働したあとに運用で守り続ける水準で、毎月などの間隔で測って報告します。
作るときの水準が、運用の目標の土台になります。ただし、運用の目標には「問い合わせへの対応」のように、システムの作りだけでは決まらないものも含まれます。
7. 目標を下回ったとき
目標を下回ったら、次のように考えます。
- 測り方どおりに集計されているか(数字の誤りではないか)
- なぜ下回ったか(特定の障害か、じわじわと悪くなっているのか)
- 何をすれば戻せるか。費用や人がどれだけかかるか
- 目標そのものが、業務に合っているか
目標を下げることも、選択肢の1つです。ただし、下げるときは、業務の責任者と合意し、その理由を記録します。障害が原因で下回ったときは、振り返り(OPS-006 障害振り返り報告書)とつなげて対策を考えます。
CASE FACTFROZEN正本に記載されたアステリア案件の事実
アステリア案件に関係する記載
- M18 本番稼働、M21 初期安定化完了
- システムに SYS-11 監視・ログ基盤がある
- マルチベンダー
- P-011 山下 恵 — 本番移行・運用リーダー
- 成果物に OPS-007 サービス品質目標一覧がある
アステリア案件のサービス品質目標の中身・値・測り方、報告の相手と頻度、委託先との合意の有無と内容は、正本に記載がありません。未確定
8. THINK — 目標は達成しているのに、不満が出る
(教材上の例)毎月の報告で、「使えること」の目標は毎月達成しています。それでも利用部門からは、「よく止まって仕事にならない」という声が続いています。
問題
目標を達成しているので、問題はないと言えるでしょうか。
判断例を開く
判断
言えません。数字と利用者の実感がずれているときは、まず測り方を疑います。
確認すること:
- 一部の機能だけが使えない時間を、「使えなかった」と数えているか
- 短い停止が何度も起きていても、合計の時間が小さいために目立たなくなっていないか
- 利用部門が困っている時間帯が、数える範囲に入っているか
- 「止まった回数」など、実感に近い目標を足す必要があるか
目標を達成していても、利用者が困っているなら、目標か測り方を見直します。
9. よくある失敗
- 目標の値だけを決め、測り方を決めていない
- システムの部品の値だけを目標にし、利用者の実感とずれる
- 報告はしているが、下回ったときに誰が何をするかが決まっていない
- 最初から高すぎる目標を決め、毎月下回るのが当たり前になる
10. 成果物との接続
- OPS-007 サービス品質目標一覧:目標・測り方・報告・下回ったときの対応を一覧にする
- REQ-003 非機能要件一覧:作るときの水準。運用の目標の土台
- OPS-002 監視・アラート一覧:目標を測るための記録の出どころ
- OPS-006 障害振り返り報告書:障害で目標を下回ったときの対策
11. AI WORKFLOW — 報告の下書きを作らせる
AIは、記録から集計し、報告の下書きを作るのに役立ちます。
指示例:
「次の停止の記録と問い合わせの記録から、添付した測り方の定義どおりに今月の値を集計し、目標と比べた表の下書きを作ってください。定義に当てはまるか迷う記録は集計に入れず、一覧にして示してください。目標を達成したかどうかの評価は書かないでください。」
12. REVIEW — AIの集計を確認する
- 集計が、測り方の定義どおりか(除くもの・数える時間の範囲)
- AIが迷う記録を、勝手に含めたり除いたりしていないか
13. 人間が判断すること
- どの目標を、どの値で、どの測り方で決めるか
- 迷う記録を、数えるか除くか
- 下回ったときに、費用をかけて戻すか、目標を見直すか
14. 判断演習
(教材上の例)「問い合わせへの対応」の目標を、3か月続けて下回りました。
報告の場で、あなたが確かめたいことを3つ挙げてください。そのうえで、目標を下げるべきか、対応の体制を変えるべきかを判断するために、どんな情報が必要かを書いてください。
あなたの記録あなたの考え。事実ではありません
判断ノート
このユニットで覚えてほしいこと
サービス品質は、目標・測り方・報告・下回ったときの対応をそろえて管理します。
数字と利用者の実感がずれたら、まず測り方を見直します。