このユニットの結論
「安定して動かしてください」は契約になりません。
サービス水準は、何を・どう測り・どの値を下回ったら・何が起きるかの 4 つがそろって初めて契約に書けます。測り方のない水準は守られているか確かめられず、下回ったときの扱いのない水準は守られません。
1. 何の話か
このユニットは、サービス水準(どの程度の品質でサービスを提供するか)を契約に書く話です。
外部のサービスを利用するとき、運用を外部に委ねるとき、基盤の提供を受けるとき、相手が「どの程度の品質を約束するか」を決めるのがサービス水準の合意(SLA)です。14-03 サービス品質を数値で管理する で学ぶ稼働後の品質の管理は、契約の段階で何を書いたかに左右されます。
2. なぜ必要か
水準を書かずに契約すると、
- 止まっても「努力はした」と言われ、契約上は何も問えない
- 遅くても「正常に動いている」と言われ、どこからが異常か決められない
- 下回ったときに何が起きるか(報告、改善、減額)が決まっておらず、交渉が毎回ゼロから始まる
ということが起きます。逆に、測れない水準や厳しすぎる水準を書くと、費用だけが上がります。
3. このユニットで分かること
- 水準に書く 4 つの要素
- 測り方で意味が変わること
- 水準と費用の釣り合い
4. 水準の 4 つの要素
| 要素 | 内容 | 書けていない例(一般的な例) | 書けている例(一般的な例) |
|---|---|---|---|
| 何を | 対象のサービスと範囲 | 「システム全体」 | 業務時間帯の画面応答と、夜間処理の終了時刻 |
| どう測り | 測定の方法・場所・間隔 | 「監視による」 | 提供側の監視装置で 1 分ごとに測り、月ごとに集計 |
| どの値を下回ったら | 目標の値と、計画停止の扱い | 「高い稼働率」 | 月の稼働率 99.9% 以上。事前合意の計画停止は除く |
| 何が起きるか | 報告、改善、減額、解約の条件 | 書かれていない | 下回った月は原因と対策を 10 営業日以内に報告。3 か月連続で下回れば利用料を減額 |
4 つのうち「どう測り」が最も抜けやすく、最も影響が大きい要素です。
5. 測り方で意味が変わる
同じ「稼働率 99.9%」でも、測り方で意味は大きく変わります。
- どこで測るか:提供側の装置の前で測れば高く出る。利用者の画面まで含めて測れば低く出る
- 何を止まったと数えるか:全面停止だけか、一部の機能の停止も含むか、遅いだけの状態は含むか
- いつ測るか:24 時間か、業務時間帯だけか。業務時間帯だけなら、夜間の停止は数えない
- 計画停止:更新作業の停止を除くなら、除く条件(事前通知の日数、上限の時間)を書く
契約の交渉では、目標の値より先に測り方をそろえます。測り方が違えば、値を比べる意味がありません。
CASE FACTFROZEN正本に記載されたアステリア案件の事実
アステリア案件のサービス水準に関する記載
- SYS-03 勤怠・工数管理SaaS は Vendor D タイムリンクの担当範囲(外部のサービス)
- Vendor B クラウドブリッジ — クラウド基盤、ネットワーク、IAM、連携、CI/CD、監視
- 成果物に OPS-007 サービス品質目標一覧 がある
- P-011 山下 恵 — 本番移行・運用リーダー、P-007 松本 健太 — 営業・契約業務リーダー
各ベンダー・外部サービスとの契約にどんな水準が書かれていたか、測り方や下回ったときの扱いがどう決められたかは、正本に記録がありません。記録なし
6. THINK — 「稼働率 99.99% を要求する」
契約の交渉で、業務部門から次の要望が出ました。
「業務が止まると困るので、すべてのサービスに稼働率 99.99% を契約で要求してください。」
問題
この要望をそのまま契約に書いてよいでしょうか。
判断例を開く
判断
99.99% は年に約 53 分しか止められない水準です。すべてのサービスに一律に求めると、費用が大きく上がり、しかも測り方が決まっていなければ守られているかも分かりません。
確認すること:
- サービスごとに、止まったときの業務への影響は同じか(違うなら水準も分ける)
- 測り方(どこで、何を止まったと数え、いつ測るか)が決まっているか
- 下回ったときに何が起きるか(報告、改善、減額)が決まっているか
- 水準を上げることで増える費用と、止まったときの損失を比べたか
- 提供側が水準を守るための仕組み(二重化、切り替え)を持っているか
水準は「困るから高く」ではなく、「影響と費用の釣り合い」で決めます。
7. よくある失敗
- 目標の値だけを書き、測り方と下回ったときの扱いを書かない
- すべてのサービスに同じ水準を求め、費用だけが上がる
- 提供側の測り方をそのまま受け入れ、利用者の体験と合わない数字で「守られている」ことになる
- 下回っても報告を求めず、問題が繰り返される
8. 成果物との接続
- BUS-006 ベンダー評価表:提案を比べるとき、約束する水準と測り方も評価の項目に入れる
- OPS-007 サービス品質目標一覧:契約で合意した水準を、稼働後の目標として管理する。契約の水準と社内の目標は分けて書く
契約に書く水準(相手との約束)と、社内で目指す目標(自分たちの基準)は別物です。社内の目標は契約より高く置くのが普通です。
9. AI WORKFLOW — 水準の 4 要素の抜けを点検させる
AIは、契約案の水準の条項を 4 つの要素に分け、抜けている要素を見つける下書きに役立ちます。
指示例:
「次の契約案のサービス水準の条項を、サービスごとに『何を』『どう測り』『どの値を下回ったら』『何が起きるか』の 4 つに分けて表にしてください。書かれていない要素は空欄のまま示し、値を提案したり妥当性を評価したりしないでください。」
10. REVIEW — AIの表を確認する
- AIが「書かれている」とした要素が、条項に本当にあるか(似た言葉で代用していないか)
- 測り方の記述が、提供側の都合に偏っていないかを人が読んだか
- 契約案を AI に渡してよいか(守秘の扱い)を事前に確かめたか
11. 人間が判断すること
- サービスごとの水準と、その根拠(影響と費用)
- 測り方を誰の装置で、どう決めるか
- 下回ったときに何を求めるか
12. 判断演習
「夜間の集計処理が翌朝の始業までに終わること」をサービス水準として契約に書くとします。
4 つの要素(何を・どう測り・どの値を下回ったら・何が起きるか)をそれぞれ 1 文で書いてください。そのうえで、「提供側が有利になる測り方」と「利用側が有利になる測り方」の違いを 1 つ挙げてください。
あなたの記録あなたの考え。事実ではありません
判断ノート
このユニットで覚えてほしいこと
水準は 4 つの要素でできている。何を・どう測り・どの値を下回ったら・何が起きるか。目標の値より先に、測り方をそろえる。