このユニットの結論
AIは、プログラムを速く書けます。しかし、何を頼み、どこまで任せ、どう確かめるかを決めるのは人間です。
AIにコードを書かせるときは、頼む前に「目的・触ってよい範囲・触ってはいけないもの・終わりの条件・確かめ方」を書き、終わったあとに人が差分を確かめます。
1. 何の話か
このユニットは、AIにプログラムを書かせたり直させたりするときの基本の進め方の話です。
AIにできることは広がっています。
- 画面や処理のプログラムの下書き
- テストのプログラムの下書き
- 既存のプログラムの説明
- エラーの原因の候補の整理
一方で、AIは頼まれた内容を、頼んだ人の意図とは違う形で解釈することがあります。
2. なぜ必要か
AIへの頼み方があいまいだと、
- 頼んでいない場所まで変えてしまう
- 動くが、業務のルールに合わないプログラムを作る
- もっともらしい説明を付けて、誤りを含んだ変更を出す
ということが起きます。AIの説明が正しそうに見えるほど、人は確かめなくなりがちです。
3. このユニットで分かること
- AIに頼む前に書くこと
- AIの変更を確かめる方法
- AIに任せてよいことと、人間が判断すること
4. 頼む前に書くこと
| 項目 | 内容(一般的な例) |
|---|---|
| 目的 | 何のための変更か。どの要件に当たるか |
| 触ってよい範囲 | 変更してよいファイル・機能 |
| 触ってはいけないもの | 本番環境、権限の設定、他の会社の担当範囲など |
| 終わりの条件 | 何ができたら終わりか |
| 確かめ方 | どのテストで、何を確かめるか |
これは、人に作業を頼むときの依頼書と同じです。AIは、書かれていないことを自分で補って進めることがあるため、人に頼むとき以上に明確に書きます。
5. 終わったあとに確かめること
- 変更されたファイルの数と場所が、頼んだ範囲に収まっているか
- 差分を人が読んだか(09-02 コードレビューは何を見るのか)
- 頼んだ確かめ方で、確かめたか
- AIの変更と、それを誰が承認したかを記録したか
CASE FACTFROZEN正本に記載されたアステリア案件の事実
アステリア案件のAIの位置づけ
- AI活用ありのプロジェクト
- システムに SYS-10 AI開発エージェント、SYS-09 開発・CI/CD基盤がある
- AIは意思決定責任者ではない。人間が管理する作業実行・支援手段とする
- AIへ最終委任しないこと:投資承認、要件確定、設計承認、セキュリティ例外承認、本番移行承認、Go / No-Go、重大障害判断
- P-013 木村 亮 — AIガバナンス責任者
アステリア案件で、AIにどの作業をどこまで任せたか、どの権限を与えたかは、正本に記載がありません。未確定
6. THINK — 「全部よしなに直して」
テストで見つかった不具合を、AIに「関係するところを全部よしなに直して」と頼みました。AIは修正を終え、「すべてのテストが合格しました」と報告しています。
問題
この報告を受けて、変更を取り込んでよいでしょうか。
判断例を開く
判断
まだ取り込みません。
確認すること:
- 「関係するところ」とは、どこだったのか(頼んだ範囲が書かれていない)
- 実際に変わったファイルは、どこか
- テストが、変更された部分を確かめる内容になっているか
- 変更の差分を、人が読んだか
頼み方があいまいだったことに気づいたら、範囲を決めて頼み直すことも選択肢です。
7. よくある失敗
- 目的だけを伝え、範囲や禁止事項を書かない
- AIの「合格しました」という報告を、そのまま確認済みとして扱う
- AIに本番環境や重要な権限を与えたまま作業させる
- AIが行った変更を記録しない
8. 成果物との接続
- AI-001 AI開発利用方針:AIをどう使うかの基本方針
- AI-002 AIエージェント権限表:AIに与える権限を決める
- AI-003 AI変更実行記録:AIが行った変更を記録する
- AI-004 AI変更承認チェックリスト:AIの変更を承認する前に確かめる
権限の考え方は 09-06 AIにどこまで権限を渡すか で学びます。危機演習 CR11 では、AIによる変更をどう確かめるかを体験します(学習上の接続です。正式な対応関係ではありません)。
9. AI WORKFLOW — 依頼書の下書きをAIに手伝わせる
AIに作業を頼む前に、依頼書そのものをAIに点検させることもできます。
指示例:
「次の依頼内容を読み、目的・触ってよい範囲・触ってはいけないもの・終わりの条件・確かめ方のうち、書かれていない項目を挙げてください。項目の中身は提案せず、空欄として示してください。」
10. REVIEW — AIの変更を確かめる
- 変更の差分を、人が開いて読んだか
- 変更したAI自身の説明を、証拠として扱っていないか
- 範囲の外の変更がないか
- 記録(誰が頼み、何が変わり、誰が承認したか)が残っているか
11. 人間が判断すること
- AIに何を任せるか、どの権限を与えるか
- AIの変更を取り込むか、取り消すか
- 本番へ出してよいか
設計承認・本番移行承認・Go / No-Go は、AIへ最終委任しない事項です(正本の方針)。
12. 判断演習
次の依頼を、AIへの依頼書として書き直してください。
「請求データの作成処理を速くして」
書き直すときは、上の表の5項目をすべて埋めてください。分からない項目は、誰に確認するかを書いてください。
あなたの記録あなたの考え。事実ではありません
判断ノート
このユニットで覚えてほしいこと
AIにコードを書かせるときは、頼む前に範囲と確かめ方を決め、終わったあとに人が差分を確かめる。
AIは作業を速くしますが、判断と責任は人間に残ります。