このユニットの結論
「何人まで使えればよいか」は、社員の人数を書けば決まるものではありません。
「いつ・何人が・どの操作を・同時にするか」を業務の場面から見積もり、その条件を書いた目標にすることで、設計とテストで確かめられる要件になります。
1. 何の話か
このユニットは、非機能要件(06-01)のうち、利用する人数と処理の量の話です。
システムは、使う人が増えるほど、画面の応答が遅くなったり、処理が詰まったりします。どこまでの人数・量に耐えればよいかを、作る前に決めておく必要があります。
2. なぜ必要か
利用の人数と量の目標がないと、
- 作る人が、自分の想定で設計する(少なすぎても多すぎても問題になる)
- テストで、どの条件で確かめればよいかが決まらない
- 稼働してから「こんなに一度に使うとは思わなかった」ということが起きる
ということが起きます。多すぎる想定で作れば費用がかさみ、少なすぎる想定で作れば業務が止まります。
3. このユニットで分かること
- 「利用者数」の3つの意味の違い
- 利用が重なる場面(ピーク)の見積もり方
- 目標を、確かめられる形で書く方法
- 見積もりで、AIに任せてよいことと人間が決めること
4. 「利用者数」の3つの意味
「利用者は何人ですか」という問いには、少なくとも3つの意味があります。
| 言葉 | 意味 |
|---|---|
| 登録利用者数 | システムを使う権利を持っている人の数 |
| 同時利用者数 | ある時点で、ログインして使っている人の数 |
| 同時に処理する件数 | ある時点で、同時に動いている操作や処理の数 |
システムの負荷に直接かかわるのは、下の2つです。登録している人が多くても、全員が同時に同じ操作をするとは限りません。逆に、少ない人数でも、大量の処理を一度に動かせば負荷は大きくなります。
5. 利用が重なる場面(ピーク)を見積もる
一般的には、平均ではなく、利用がいちばん重なる場面を基準にします。
見積もりの手順の例:
- 業務の担当と一緒に、利用が重なる場面を挙げる(例:始業の直後に多くの人が一斉にログインする、年度の初めに全員が一斉に登録する)
- その場面で、何人が、どの操作を、どのくらいの時間に集中して行うかを見積もる
- 人の操作と同時に動く処理(他のシステムとの連携、夜間処理の延長など)を足す
- 将来の増加(組織の拡大、データの増加)をどこまで見込むかを決める
- 見積もりの根拠(誰に聞いたか、何の記録を見たか)を残す
今のシステムの利用の記録(何時に何人がログインしたか、など)があれば、見積もりの有力な根拠になります。
CASE FACTFROZEN正本に記載されたアステリア案件の事実
アステリア案件に関係する記載
- 従業員 約4,000名
- 約120人規模のプロジェクト
- 10年分のデータ移行
- システムに SYS-01 新基幹システム、SYS-08 認証・ID基盤、SYS-11 監視・ログ基盤がある
従業員数は正本にありますが、新基幹システムの登録利用者数・同時利用者数・利用が重なる場面・性能の目標は、正本に記載がありません。未確定 従業員数をそのまま利用者数や同時利用者数として扱いません。約120人はプロジェクトの規模で、システムの利用者数ではありません。
6. THINK — 「全社員が使うので、全社員分」
要件を決める会議で、次の案が出ました。
「全社員が使うシステムなので、同時利用者数の目標は全社員の人数にしましょう。それなら足りないことはありません。」
問題
この案で要件を決めてよいでしょうか。
判断例を開く
判断
このままでは決められません。
確認すること:
- 全社員が本当に同時に使う場面はあるか。あるなら、どの操作か
- 登録利用者数と同時利用者数を混同していないか
- その目標にすると、設計と費用はどれだけ増えるか
- 実際に利用が重なる場面の見積もりと、その根拠はあるか
「多めにしておけば安心」は、費用と引き換えです。根拠のある見積もりで決め、足りなくなったときの対応(増やせる設計にしておく、など)も合わせて考えます。
7. 目標を確かめられる形で書く
目標は、数だけでなく条件と一緒に書きます。
教材用サンプル書き方を学ぶための例
| 書き方 | 問題 |
|---|---|
| 「多くの人が同時に使っても快適に動くこと」 | 人数も、操作も、「快適」の基準もない |
| 「同時に500人が使えること」 | どの操作を、どの応答で、が分からない |
| 「始業直後の30分間に、500人がログインし、うち200人が一覧画面を開く状態で、一覧画面が決めた時間内に表示されること」 | 場面・人数・操作・基準がそろっている |
人数・時間はすべて教材上の架空の例で、アステリア案件の目標ではありません。
8. よくある失敗
- 登録利用者数を、同時利用者数の目標にする
- 平均の利用だけを見て、利用が重なる場面を見ない
- 人の操作だけを数え、同時に動く連携や処理を数えない
- 見積もりの根拠を残さず、あとで誰も説明できない
- 目標を決めたが、テストでその条件を再現しない
9. 成果物との接続
- REQ-003 非機能要件一覧:利用の人数と量の目標を、条件と一緒に管理する
- TST-005 性能試験結果報告書:目標の条件で確かめた結果を残す
- ARC-006 設計判断記録:人数・量の見込みをもとに決めた設計を記録する
性能の確かめ方は 10-04 性能をどう確認するのか で学びます。危機演習 CR06 性能目標2秒に対して32秒 では、性能の問題が見つかった場面を体験します(学習上の接続です。正式な対応関係ではありません)。
10. AI WORKFLOW — 利用が重なる場面の洗い出しを手伝わせる
AIは、業務の説明から、利用が重なりそうな場面の候補を挙げる下書きに役立ちます。
指示例:
「次の業務の説明から、多くの人が同時に同じ操作をしそうな場面の候補を挙げ、それぞれについて業務の担当に確かめるべき質問を書いてください。人数や件数は推測で書かないでください。」
11. REVIEW — AIの洗い出しを確認する
- AIが人数や件数を推測で書いていないか
- 挙がった場面を、業務の担当が実際に確かめたか
- 人の操作と同時に動く処理(連携など)が抜けていないか
12. 人間が判断すること
- 利用が重なる場面と、その見積もり
- 将来の増加をどこまで見込むか
- 目標の水準と、それにかける費用のバランス
13. 判断演習
あなたは、新しいシステムの同時利用の目標を決める担当です。
業務の担当に聞き取りをする前に、質問を4つ用意してください。「何人ですか」以外の質問にしてください。
あなたの記録あなたの考え。事実ではありません
判断ノート
このユニットで覚えてほしいこと
利用の目標は、人数ではなく「場面・人数・操作・基準」の組み合わせで決めます。
見積もりの根拠を残し、テストで同じ条件を再現して確かめます。