これは何か
段階的リリース計画は、新しい版を本番の全員に一度に出すのではなく、一部の利用者や一部の処理から出し、観察する指標と広げる条件・戻す条件を決めて、段階的に広げる手順を書いた成果物です。
全員に一度に出すと、問題が出たときの影響も全員です。一部から出せば、問題は一部にとどまり、戻すのも速くなります。世界で共有されている考え方では、機能の切り替えスイッチ(フィーチャーフラグ)や、少数への先行配布(カナリアリリース)を使う進め方を「プログレッシブデリバリー」と呼びます。
なぜ作るか
- 本番で初めて分かる問題(本番のデータ量、本番の使われ方)の影響を、一部にとどめる
- 「出す・広げる・戻す」の判断を、数字と事前の条件で行い、その場の空気で決めない
- 戻す手順を、出す手順と同じ重さで用意する(12-03 失敗したら元に戻せるか)
- 自動の流れ(09-04 自動テストと自動配布)の最後の段階(本番)を、段階的に進められるようにする
誰が使うか・いつ作るか
- 作る人:開発の取りまとめ役と、開発・CI/CD 基盤を担当する会社。運用の担当が観察する指標を提供する
- 使う人:リリースを決める人、配布を実行する人、運用・監視の担当、業務部門の窓口
- 一般的には、本番への配布の仕組みを作るときに型を決め、リリースごとに具体の値(対象、指標、条件)を埋めます
- アステリア案件で段階的なリリースが行われたか、どんな条件で広げたかは、正本に記載がありません。未確定
CASE FACTFROZEN正本に記載されたアステリア案件の事実
リリースに関係する記載
- M18 本番稼働、M21 初期安定化完了
- システムに SYS-09 開発・CI/CD基盤、SYS-11 監視・ログ基盤 がある。Vendor B クラウドブリッジの担当範囲に CI/CD、監視 が含まれる
- 成果物に DEV-004 環境・リリース対応表、CUT-003 切り戻し計画書 がある
- P-011 山下 恵 — 本番移行・運用リーダー
- 本番移行承認は、AIへ最終委任しない事項
稼働後のリリースがどんな段階で行われ、何を観察して広げたかは、正本に記載がありません。未確定
主な項目
一般的には、リリース 1 回ごとに次の項目を持ちます。
- 対象の変更:何を出すか(機能、修正)。切り替えスイッチで隠せる変更か、隠せない変更(データの形の変更 など)か
- 段階:最初の対象(たとえば社内の 1 部門、全体の 5%)、次の対象、全体。段階ごとの期間
- 観察する指標:誤りの率、応答の時間、処理の失敗件数、問い合わせの件数。段階ごとの観察の期間
- 広げる条件:指標がどの範囲なら次の段階へ進めるか。誰が判断するか
- 戻す条件:指標がどの値を超えたら即座に戻すか。自動で戻すか、人が判断するか
- 戻す手順:切り替えスイッチを戻す、前の版に戻す、データを戻す。それぞれにかかる時間と、戻せなくなる点
- 連絡:段階ごとに、誰に何を知らせるか。問題が出たときの連絡先
- 記録:各段階の実施日時、指標の値、判断、判断した人
教材用サンプル成果物の読み方を学ぶための例
教材用サンプル — 段階と条件の表
この成果物は学習用サンプルです。FROZEN正本に記載されたCASE FACTと、成果物の読み方を学ぶための教材用サンプル値を区別して表示しています。
次の表は、請求の画面の改修を題材にした計画の例です。数値・対象はすべて教材上の架空の例で、アステリア案件の記録ではありません。
| 段階(教材上の例) | 対象 | 観察の期間 | 広げる条件 | 判断する人 |
|---|---|---|---|---|
| 1 | 経理部門の担当者 12 人(切り替えスイッチで対象を限定) | 2 営業日 | 画面の誤りの率が従来と同等以下、問い合わせが 0 件、応答の時間の p95 が従来の 1.2 倍以内 | リリースを決める人 |
| 2 | 利用者の 25%(部門単位) | 3 営業日 | 同上。加えて、夜間処理の件数が前週と同等 | リリースを決める人 |
| 3 | 全員 | 継続観察 | ― | ― |
| 戻す条件(教材上の例) | 戻し方 | かかる時間 | 自動か人か |
|---|---|---|---|
| 画面の誤りの率が従来の 3 倍を超える | 切り替えスイッチを戻す | 1 分 | 自動(監視が検知したら) |
| 応答の時間の p95 が従来の 2 倍を超える状態が 10 分続く | 切り替えスイッチを戻す | 1 分 | 自動 |
| 業務部門から業務が進まないという連絡 | 切り替えスイッチを戻す | 5 分 | 人(リリースを決める人) |
| データの形の変更に不具合 | 前の版に戻し、変換したデータを戻す | 2 時間。変換後に新しいデータが入ると戻せない | 人。戻せなくなる点の前に判断 |
読み方
- 段階ごとに、対象・観察の期間・広げる条件が数字で書かれているか
- 戻す条件が、広げる条件より厳しく、即座に動く形か
- 戻す手順にかかる時間と、戻せなくなる点が書かれているか
- 切り替えスイッチで隠せない変更(データの形)が、別の扱いになっているか
- 各段階の判断と指標の値が記録に残るか
書き方
- 変更を「切り替えスイッチで隠せるもの」と「隠せないもの」に分ける
- 観察する指標を運用・監視の担当と決め、従来の値(比べる基準)を測っておく
- 段階と条件を表にする。戻す条件は、広げる条件より先に決める
- 戻す手順を実際に一度通す(戻したことのない手順は動かない)
- リリースごとに記録を残し、条件の妥当性を見直す
何を書いてはいけないか
- 「問題がなければ広げる」のような、指標のない条件
- 戻す手順のない計画(出すことだけを考えた計画は、計画ではない)
- 切り替えスイッチを本番に残し続けること(使い終わったスイッチは消す決まりを書く)
- 実在の製品名を、案件の正式な採用として書くこと(正本に記載がない)
どこを見るか
- 段階と対象
- 観察する指標と比べる基準
- 広げる条件と戻す条件
- 戻す手順の時間と戻せなくなる点
- 判断の記録
赤信号
- 段階的に出す計画なのに、観察する指標が決まっておらず、「様子を見る」だけになっている
- 戻す条件が決まっておらず、問題が出てから会議で戻すかを議論している
- 切り替えスイッチが何十も本番に残り、どれが有効か誰も分からない
- 戻す手順を一度も実行したことがない
よくある失敗
- 最初の段階の対象を「協力的な部門」だけにし、本番の使われ方の幅を見ずに全体へ広げる
- 広げる条件は決めたが戻す条件を決めず、問題が出ても「もう少し様子を見る」が続く
- データの形の変更を切り替えスイッチで隠せると思い込み、戻せなくなる点を見落とす
関係するUnit・成果物・危機演習
- Unit:09-07 本番へ段階的にどう出すか、09-04 自動テストと自動配布、12-03 失敗したら元に戻せるか、14-02 正常に動いているか何を見るのか
- 成果物:DEV-003 自動テスト・自動配布構成、DEV-004 環境・リリース対応表、CUT-003 切り戻し計画書、OPS-002 監視・アラート一覧
- 危機演習:この成果物を直接の題材にする危機演習はありません
AI WORKFLOW
AIは、リリースごとの記録(段階、指標の値、判断)から、広げる条件・戻す条件が実際にどう働いたかをまとめる下書きに役立ちます。
「次のリリースの記録を読み、段階ごとに『観察した指標の値』『条件を満たしたか』『判断』を表にし、条件を満たしていないのに広げた段階、条件を超えたのに戻さなかった段階があれば示してください。条件の良し悪しや、判断の是非は評価しないでください。」
REVIEW
- AIが「条件を満たした」と読んだ指標の値が、記録と一致しているか
- 条件と判断が食い違った段階について、理由(了解された例外か)を人が確かめたか
- リリースの記録を AI に渡してよいか(構成・業務情報の扱い)を事前に確かめたか
人間が判断すること
- 最初の段階の対象と、段階の数
- 広げる条件と戻す条件の値
- 条件を満たさないときに、広げるか、待つか、戻すか
本番移行承認は、AIへ最終委任しない事項です(正本の方針)。
いつ使うか
この教材では STAGE 09|120人で安全に開発する の文脈で扱います。 アステリア案件での正式な作成・使用時期(月)は正本に記載がないため、未確定としています。
最後の問い
この計画を読んだリリースの担当は、「最初に誰に出し、何を見て、どの数字になったら次へ広げ、どの数字になったら即座に戻すか」を、説明なしで実行できますか?